・・・宰という思い上ったやつが、何やら先生に向って言っているようですが、あれはきたならしいやつですから、相手になさらぬように、それなのに、その嫌らしい、その四十歳の作家が、誇張でなしに、血を吐きながらでも、本流の小説を書こうと努め、その努力が却っ・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・今まではその地名さえも知られなかったセエヌの河畔は忽ちの間に散歩の人の雑沓を来すようになって、最初の発見者 Daubigny はとうとうセエヌ河の本流を見捨て Oise の支流を遡って Anvers の遠方へ逃げ込み、Corot はやっと水・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・その途中から支流は東の方に向い、弥勒寺の塀外を流れ、富川町や東元町の陋巷を横ぎって、再び小名木川の本流に合している。下谷の三味線堀が埋立てられた後、市内の堀割の中でこの六間堀ほど暗惨にして不潔な川はあるまい。わが亡友A氏は明治四十二年頃から・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
・・・放水路の水と荒川の本流とは新荒川橋下の水門を境にして、各堤防を異にし、あるいは遠くなりあるいは近くなりして共に東に向って流れ、江北橋の南に至って再び接近している。 堤の南は尾久から田端につづく陋巷であるが、北岸の堤に沿うては隴畝と水田が・・・ 永井荷風 「放水路」
・・・ これに、誰でも、真個に人間を、人類を貫いている普遍的な光明である愛の本流に、瞬間でも触れたことのある者は実感されることでしょう。 率直な表現を許して下されば、今、私は、自分の「真個なもの」によって、結婚した両性の愛は、何も、ちょく・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・働かせはするが、仕事の本流で女は除外されているから、向上の前途も見とおし少い。 それに加えて、今日でもまだ男のひとたちが、相当の生活力をもつ女には男にその二つが是非ほしいように、やっぱり家庭と仕事とがいるのだという自然なねがいを、自然な・・・ 宮本百合子 「ものわかりよさ」
出典:青空文庫