・・・であろうとも、まず顔に目をひかれ初めるものであるという人間の素朴本然な順序に、すらりとのりうつって、こちらに顔を向けている三人の距離を、人間の顔というよすがによって踰えている。偶然によってではなくて、はっきりした考えをもって、芸術の虚構の効・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・日本婦人協力会というような、戦争協力者の集りのような婦人団体は、せめて彼女らが女性であるという本然の立場に立って、時間と金とを、そのような母と子とのために現実性のある功献に向けるべきであると、警告すべきであった。日本婦人協力会には、検事局の・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・ 然し、本然が暗と罪と堕落なのであろうか。此処に来ると、自分は長与氏、又は、トルストイの考えとは同一仕かねる。 性慾は、本来に於て、厳粛な責任と、反省と、義務とを負担し伴ったものであると思う。故に、その純粋な場合には必ず其等の一面も・・・ 宮本百合子 「黄銅時代の為」
・・・少くとも自分は、小理屈や負惜しみ等で胡麻化し切れない本然な力の爆発に、或る部分の「我」を粉微塵に吹飛ばされて見て、始めて他人と自分とをその者本来の姿で見る事を幾分か習い始めたと云えるのである。 こう云う自分の心持の変化は、今まで矢張り何・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・ 私は、ここに人間の本然的な社会性と仕事の現実性の面白いところが潜んでいると思います。仕事というにあたいするだけの仕事はこの社会の現実の中で決して超人間的、超社会的関係にはあり得ない。人間と人間との相互的ないきさつの間からこそ、仕事は生・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・ これこそ、本然的な芸術における産業別ではないか。「ラップ」の重大な責任は、社会的労働において既に産別に組織されているこういうコムソモール、労農通信員の創造力を正しく芸術活動へ導くことにある。人為的な作家の産業別わりあては、或る種の・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・における作者石坂氏が自身の芸術活動のモティーヴとして固守している超歴史的な本然性・人間性の主張、系統ある行為の目的性などを否定するという彼の系統だった現実への態度として明瞭に見られるところである。 阿部知二氏は「幸福」を今日の漱石文学と・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・作家は、文化として一般の教養の低いことを怪しまない時代にめぐり合えば、そのことに対する本然な疑問から先ず彼の作家的成長の一歩が始まるとさえ云い得るのだと思う。〔一九四〇年五月〕 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・ 母の生活にあらわれる光りと翳を、女性のその時代、その年頃の生命の波だちとして感じられるようにもなり、ひいてそのことは、日本の世間のしきたりや女の暮しとして定められている形と女性本然の生活への翹望というものが、時にどんな形で相搏つものか・・・ 宮本百合子 「白藤」
人類が、生命の本然によりて掛ける祈願の前に、私共は謙譲であり、愛に満ちてありたい。 あらゆる悲惨の彼方へ、あらゆる不正と、邪悪との彼方へ! 其れは利己的な、一寸法師の「我」が探求する事なのではないのだ、と想う。お互の魂・・・ 宮本百合子 「断想」
出典:青空文庫