・・・それは、農林省の『本邦農業要覧』にあらわれた数字よりも、もっと正確に日本農民の生活を描きだしていた。けれども、それだけに止っていた。」とナップ三月号で池田寿夫はいっている。確に、それはその通り、それだけに止っていたのである。農林省の「本邦農・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・少なくも本邦のトーキー脚色者には試みに芭蕉蕪村らの研究をすすめたいと思う。 未来の映画のテクニックはどう進歩するか。次に来るものは立体映画であろうか。これも単に双眼的効果によるものでなく、実際に立体的の映像を作ることも必ずしも不可能とは・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・昭和五年版の「本邦のおもな火山」の表を採ることにする。これは現在の目的とはなんの関係なしに作られたものであるから、自分の勝手がきかないところに強みがある。これを採用するとした上で山名の読み方が問題となるが、これは「大日本地名辞書」により、そ・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・なかんずく本邦学者の多年の熱心な研究のおかげで颱風の構造に関する知識、例えば颱風圏内における気圧、気温、風速、降雨等の空間的時間的分布等についてはなかなか詳しく調べ上げられているのであるが、肝心の颱風の成因についてはまだ何らの定説がないくら・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・ 五十年前に父が買った舶来のペンナイフは、今でも砥石をあてないでよく切れるのに、私がこのあいだ買った本邦製のはもう刃がつぶれてしまった。古ぼけた前世紀の八角の安時計が時を保つのに、大正できの光る置き時計の中には、年じゅう直しにやらなけれ・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
・・・そこで本邦地名の問題に触れるとなれば、自然の勢いで、アイヌ語や朝鮮語による地名起原説を参照しなければならぬ事になる。そうなると問題は自然自然に推移して結局は日本語の成立問題にまでも多少は触れないわけには行かなくなるのである。 そうかと言・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・日本の景観の多様性はたとえば本邦地質図の一幅を広げて見ただけでも想像される。それは一片のつづれの錦をでも見るように多様な地質の小断片の綴合である。これに応じて山川草木の風貌はわずかに数キロメートルの距離の間に極端な変化を示す。また気象図を広・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・これは友人滝君が京都大学で本邦美術史の講演を依託された際、聴衆に説明の必要があって、建築、彫刻、絵画の三門にわたって、古来から保存された実物を写真にしたものであるから、一枚一枚に観て行くと、この方面において、わが日本人が如何なる過去をわれわ・・・ 夏目漱石 「『東洋美術図譜』」
出典:青空文庫