・・・が、彼の机上にあるのはいつも英語の本ばかりだった。 偶像 何びとも偶像を破壊することに異存を持っているものはない。同時に又彼自身を偶像にすることに異存を持っているものもない。 又 しかし又泰然と偶像に・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ 諸君は諸君の机上を飾っている美しい詩集の幾冊を焼き捨てて、諸君の企てた新運動の初期の心持に立還ってみる必要はないか。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 以上は現在私が抱いている詩についての見解と要求とをおおまかにいった・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・ ジャナリズムの舞台として、雑誌は新聞に近き性質のものです。机上に置いて玩味し、黙読し考うるのは、むしろ書物そのものが持つ特性でありましょう。私などどうしても、書物を読んで、それから得た知識でなければ、真に身にならない気がします。一つは・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・だから、批評家が一朝机上の感想で、之を破壊することは不可能であるし、また無理だと思う。 茲では、其の事について云うのでない。要は、理想主義によらず、自然主義によらず、享楽主義によらず、主義と其の主張を問うのでなく、芸術品として出来上った・・・ 小川未明 「若き姿の文芸」
・・・ 四 社会運動と倫理学 青年層にはまた倫理学を迂遠でありとし、象牙の塔に閉じこもって、現実の世相を知らないものの机上の空論であるとしてかえり見ない向きもある。しかし街頭の実践運動家といえども倫理学的な指導原理を持ち、・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・その書を机上に閉じて終って、半盞の番茶を喫了し去ってから、 また行ってくるよ。と家内に一言して、餌桶と網魚籠とを持って、鍔広の大麦藁帽を引冠り、腰に手拭、懐に手帳、素足に薄くなった薩摩下駄、まだ低くならぬ日の光のきらきらする中を、黄・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・私は、私の家庭においても、絶えず冗談を言い、薄氷を踏む思いで冗談を言い、一部の読者、批評家の想像を裏切り、私の部屋の畳は新しく、机上は整頓せられ、夫婦はいたわり、尊敬し合い、夫は妻を打った事など無いのは無論、出て行け、出て行きます、などの乱・・・ 太宰治 「桜桃」
・・・ばたばたと机上の書類を片づける。 その時、いきせき切って、ひどく見すぼらしい身なりの女が出産とどけを持って彼の窓口に現われる。「おねがいします」「だめですよ。きょうはもう」 津島はれいの、「苦労を忘れさせるような」にこにこ顔・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・書斎の机上に飾り、ひさしぶりの読書したくなって、机のまえに正坐し、まず机の引き出しを整理し、さいころが出て来たので、二、三度、いや、正確に三度、机のうえでころがしてみて、それから、片方に白いふさふさの羽毛を附したる竹製の耳掻きを見つけて、耳・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・原稿は、そのままするすると編輯者の机上に送り込まれ、それを素早く一読した編輯者を、だいいちばんに失望させ、とにかく印刷所へ送られる。印刷所では、鷹のような眼をした熟練工が、なんの表情も無く、さっさと拙稿の活字を拾う。あの眼が、こわい。なんて・・・ 太宰治 「乞食学生」
出典:青空文庫