・・・谷間の地は痩せて、一倍の苦労をしながら、収穫はどればもなかった。村民は老いて墓穴に入るまで、がつ/\鍬を手にして働かねばならなかった。それよりは都会へ行って、ラクに米の飯を食って暮す方がどれだけいゝかしれない。 両人は、田舎に執着を持っ・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・積雲の集団がある時間内にある村の上を多く過ぐるか少なく過ぐるかは、時にはその村民にとりてはかなり重大なる場合もあるべし。小区域の驟雨が某市街を通過するか、その近郊のみを過ぐるかはその市民にとりては無差別にはあらず。しかれどもかくのごとき小規・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・村の貯水池や共同水車小屋が破壊されれば多数の村民は同時にその損害の余響を受けるであろう。 二十世紀の現代では日本全体が一つの高等な有機体である。各種の動力を運ぶ電線やパイプやが縦横に交差し、いろいろな交通網がすきまもなく張り渡されている・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・それは赤が死んだ日に例の犬殺しが隣の村で赤犬を殺して其飼主と村民の為に夥しくさいなまれて、再び此地に足踏みせぬという誓約のもとに放たれたということを聞いたからである。彼は其夜も眠らなかった。一剋である外に欠点はない彼は正直で勤勉でそうして平・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・そして、この担い棒をかついだ女村民の部落には村ソヴェトの赤い旗が雪の下からひるがえっている。 景色が退屈だから、家に坐ってるような心持でいちんち集団農場『集団農場・暁』を読んだ。 一九二八―二九年、ソヴェト生産拡張五ヵ年計画が着手さ・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・追い追い村へ戻って来た中国村民がそれを見て、びっくりした。そればかりではなかった。村道は清潔に整理されている。屋根に赤旗の翻る一軒の民家には村ソヴェトが組織されていた。これまでとはまるで違う毎日の生活がはじまった。中国の村民は、生れて初めて・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 主人公は、作者の故郷である Burgundy の村民で、生粋の職人である。 自然のあらゆる美を愛し、酒を愛し仕事をしんから悦ぶ彼は、自分の哲学を持って生の隅から隅までを愛する男である。彼は失望や倦怠と云う事を知らない。どんな苦痛や・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
・・・ 作者が二十章のところで、木村の一つの経験として僅か数行で説明しているA村の地主二人が二大政党に分れて対立し、それにつれてA村の村民も二派にわかれていること、※とその強慾な番頭下山、地主の変るごとに戦々きょうきょうたるA村の小作たち・・・ 宮本百合子 「作家への課題」
・・・村の生活では若い者と年輩の者との順位というものはきびしく、村民の寄合いの席順から発言の権利まで同等ではない。都会の工場労働者は、大人になった熟練工よりも、青年工を使った方が賃銀が安いということから、いつも青年労働者を多く使う。または女を使う・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・それを軍馬が壊すので、村民がしなければならない。爺さんまで出て腰の煙草入を振り振りモッコの片棒担いでいる。 附近に陸軍飛行機学校、機関銃隊、騎兵連隊、重砲隊などがある。開墾部落はその間に散在しているのだ。 南京豆と胡麻畑の奥に、小さ・・・ 宮本百合子 「飛行機の下の村」
出典:青空文庫