・・・いまの児童の読物のあまりに杜撰なる、不真面目なる、そして調子の低きなどは、児童の人格を造る上に幾何の影響あるかを考えて、転た感慨なからざるを得ないのであります。 小川未明 「新童話論」
・・・ある都の大学を尋ねて行ったらそこが何かの役所になっていたり、名高い料理屋を捜しあてると貸し家札が張ってあったりした事もある。杜撰な案内記ででもあればそういう失敗はなおさらの事である。しかし、こういう意味で完全な案内記を求めるのは元来無理な事・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・甚だ杜撰なディレッタントの囈語のようなものであるが、一科学者の立場から見た元禄の文豪の一つの側面観として、多少の参考ないしはお笑い草ともならば大幸である。 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・このはなはだ杜撰な空想的色彩の濃厚な漫筆が読者の中の元気で自由で有為な若い自然研究者になんらかの新題目を示唆することができれば大幸である。ただ記述があまりに簡略に過ぎてわかりにくい点が多いことと思われるが、そういう点についてはどうか聡明なる・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・それでこの甚だ杜撰な比較が万一この方面の専門家の真面目な研究のヒントにでもならばと思って、思い付いたままを誌してみた次第である。僭越の罪は宥してもらいたい。 寺田寅彦 「短歌の詩形」
・・・だ、近来わが国固有文化に関する研究が急激に盛んになって来たのに気がついて、愉快に感じると同時に自分も知らず知らずその趨勢に刺激されて、つい柄にない方面にまで空想の翼を延ばしたくなったようなわけである。杜撰な考証に対してもし識者の教えを受ける・・・ 寺田寅彦 「日本楽器の名称」
・・・や「杜撰」でさえも、最後の結果の桁数には影響しないというところにある。そして、関係要素の数が多くて、それら相互の交渉が複雑であればあるほど、かえってこの方法の妥当性がよくなるという点である。 それで、この方法を真に有効ならしむるには、む・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・ 最後の日にほんの二、三時間見ただけですから、ずいぶん杜撰な印象だろうと思いますが、全体からうけた印象では、この展覧会に出品している方々は、それぞれの個人、それぞれのグループで、熱心に、古い客間の装飾用としての洋画から、ほんとうに今日に・・・ 宮本百合子 「第一回日本アンデパンダン展批評」
・・・と同じ類型に属するものとすれば、それは、杜撰であろうと私は考える。 主人公の持つ方向と、作者の意企とは、それらの作品とむしろ対蹠的なものである。然し作品として見れば失敗の部に属すものとなっている要因を、その社会的根源にまで遡って見ると、・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
出典:青空文庫