・・・ この行燈で、巣に搦んだいろいろの虫は、空蝉のその羅の柳条目に見えた。灯に蛾よりも鮮明である。 但し異形な山伏の、天狗、般若、狐も見えた。が、一際色は、杢若の鼻の頭で、「えら美しい衣服じゃろがな。」 と蠢かいて言った処は、青・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・「諸人に好かれる法、嫌われぬ法も一所ですな、愛嬌のお守という条目。無銭で米の買える法、火なくして暖まる法、飲まずに酔う法、歩行かずに道中する法、天に昇る法、色を白くする法、婦の惚れる法。」 四「お痛え、痛え、・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・ 然らばすなわち、徳行の条目を示し、人たるものはかくあるべし、かくあるべからずと、ていねい反覆その利害を説明して、少年の心を薫陶するこそ、徳育の本意なるべきに、全編の文面を概すれば、むしろ心理学の解釈とも名づくべきものにして、読者をして・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・その下で、紫や紅の縮緬の袱紗を帯から三角形に垂らした娘たちが、敷居や畳の条目を見詰めながら、濃茶の泡の耀いている大きな鉢を私の前に運んで来てくれた。これらの娘たちは、伯母の所へ茶や縫物や生花を習いに来ている町の娘たちで二三十人もいた。二階の・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫