・・・撫子、銚子、杯洗を盆にして出で、床なる白菊を偶と見て、空瓶の常夏に、膝をつき、ときの間にしぼみしを悲む状にて、ソと息を掛く。また杯洗を見て、花を挿直し、猪口にて水を注ぎ入れつつ、ほろりとする。村越 (手を拍撫子 はい、はい。・・・ 泉鏡花 「錦染滝白糸」
・・・鮎の大きいのは越中の自慢でありますが、もはや落鮎になっておりますけれども、放生津の鱈や、氷見の鯖より優でありまするから、魚田に致させまして、吸物は湯山の初茸、後は玉子焼か何かで、一銚子つけさせまして、杯洗の水を切るのが最初。「姉さん、お・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・ ところが、その機を外さぬ盞事がはじまってみると、新郎の伊助は三三九度の盞をまるで汚い物を持つ手つきで、親指と人差指の間にちょっぴり挾んで持ち、なお親戚の者が差出した盞も盃洗の水で丁寧に洗った後でなければ受け取ろうとせず、あとの手は晒手・・・ 織田作之助 「螢」
・・・ 女は最初自分の箸を割って、盃洗の中の猪口を挟んで男に遣った。箸はそのまま膳の縁に寄せ掛けてある。永遠に渇している目には、またこの箸を顧みる程の余裕がない。 娘は驚きの目をいつまで男の顔に注いでいても、食べろとは云って貰われない。も・・・ 森鴎外 「牛鍋」
出典:青空文庫