・・・この通り平気です。然し、私は恥かしい事を言いました。勇に済みません。この東天下茶屋中を馳け廻って医師を探せなどと無理を言いました。どうぞ赦して下さい」と苦しげな息の下から止ぎれ止ぎれに言って、あとはまた眼を閉じ、ただ荒い息づかいが聞えるばか・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・こんな事件よりも毎朝太陽が東天に現われることがはるかに重大なようにも思われる。もう大概で打ち切りにしてもよさそうに思われるのに、そうしないのは、やはりジグスとマギーのような「定型」の永久性を要求する大衆の嘱望によるものであろう。しかし、たま・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・人格の光にあらず、霊のひらめきにあらず、人生の暁を彩どる東天の色は病毒の汚濁である。 日本民族が頭高くささぐる信条は命を毫毛の軽きに比して君の馬前に討ち死にする「忠君」である。武士道の第一条件、二千五百年の青史はあらゆるページにこの華麗・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫