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・・・と云う文句さえ、春宮の中からぬけ出したような、夕霧や浮橋のなまめかしい姿と共に、歴々と心中に浮んで来た。如何に彼は、この記憶の中に出没するあらゆる放埓の生活を、思い切って受用した事であろう。そうしてまた、如何に彼は、その放埓の生活の中に、復・・・
芥川竜之介
「或日の大石内蔵助」
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・・・その歌は、おだまきの花には桐ノ舎ガ妻ヲ迎ヘシ三年前カキテ贈リシヲダマキノ花という歌、これは一昨年の春東宮の御慶事があった時に予が鉢植のおだまきを写生して碧梧桐に送り、そのまさに妻を迎えんとするを賀した事があるのを思い出したのである。・・・
正岡子規
「病牀苦語」