・・・話すことと云い、話し振りと云い、その頃東洋へ浮浪して来た冒険家や旅行者とは、自ら容子がちがっている。「天竺南蛮の今昔を、掌にても指すように」指したので、「シメオン伊留満はもとより、上人御自身さえ舌を捲かれたそうでござる。」そこで、「そなたは・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・と言う言葉である。東洋の画家には未だ甞て落款の場所を軽視したるものはない。落款の場所に注意せよなどと言うのは陳套語である。それを特筆するムアアを思うと、坐ろに東西の差を感ぜざるを得ない。 大作 大作を傑作と混同するものは・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・には、日本の古代美術品と云えば真先に茶器が持出される、巴理博覧会シカゴ博覧会にも皆茶室まで出品されて居る、其外内地で何か美術に関する展覧会などがあれば、某公某伯の蔵品必ず茶器が其一部を占めている位で、東洋の美術国という日本の古美術品も其実三・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・ が、二葉亭のいうのは恐らくこの意味ではないので、二葉亭は能く西欧文人の生涯、殊に露国の真率かつ痛烈なる文人生涯に熟していたが、それ以上に東洋の軽浮な、空虚な、ヴォラプチュアスな、廃頽した文学を能く知りかつその気分に襯染していた。一言す・・・ 内田魯庵 「二葉亭四迷」
・・・今となっては、こうも思って、自分のやゝもすれば、沈み勝な気持を引立てたいとしますけれど、東洋流の思想が、子供の時分から頭にはいっている私達には、人生五十年というような言葉がいまでも思い出されることがあるのです。時勢が積極的となり、事実また、・・・ 小川未明 「机前に空しく過ぐ」
・・・彼はその必要品を粗略にするほど、東洋豪傑風の美点も悪癖も受けていない。今の流行語でいうと、彼は西国立志編の感化を受けただけにすこぶるハイカラ的である。今にして思う、僕はハイカラの精神の我が桂正作を支配したことを皇天に感謝する。 机の上を・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・そして夫婦別れごとに金のからんだ訴訟沙汰になるのは、われわれ東洋人にはどうも醜い気がする。何故ならそれだと夫婦生活の黄金時代にあったときにも、その誓いも、愛撫も、ささやきも、結局そんな背景のものだったのかと思えるからだ。 権利思想の発達・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・殺すは悪、恵むは善というような意欲の実質的価値判断を混うるならば、祖国のための戦いに加わるは悪か、怠け者の虚言者に恵むは善かというような問いを限りなく生ずるであろう。東洋の禅や、一般に大乗的な宗教の行為の決定に形式の善をとって、実質の善をと・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・するとやがてそのアーチの処へ西洋諸国の人にとっては東洋の我が思うのとは違った感情を持つところの十字架の形が、それも小さいのではない、大きな十字架の形が二つ、ありあり空中に見えました。それで皆もなにかこの世の感じでない感じを以てそれを見ました・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・が、すくなくとも、今日の社会、東洋第一の花の都には、地上にも空中にも、おそるべき病菌が充満している。汽車・電車は毎日のように衝突したり、人をひいたりしている。米と株券と商品の相場は、刻々に乱高下している。警察・裁判所・監獄は、多忙をきわめて・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
出典:青空文庫