・・・小松の内府なぞは利巧なだけに、天下を料理するとなれば、浄海入道より数段下じゃ。内府も始終病身じゃと云うが、平家一門のためを計れば、一日も早く死んだが好い。その上またおれにしても、食色の二性を離れぬ事は、浄海入道と似たようなものじゃ。そう云う・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・ 年が明け、松の内も過ぎた。はっきり勘当だと分ってから、柳吉のしょげ方はすこぶる哀れなものだった。父性愛ということもあった。蝶子に言われても、子供を無理に引き取る気の出なかったのは、いずれ帰参がかなうかも知れぬという下心があるためだった・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・ それから病みつきで、なんということか、明けて元旦から松の内の間一日も缺かさず、悲しいくらい入りびたりだった。身を切られる想いに後悔もされたが、しかし、もうチップを置かぬような野暮な客ではなかった。商業学校へ四年までいったと、うなずける・・・ 織田作之助 「雪の夜」
・・・そこで、正月の松の内に、五、六人の友人と一隻のポンポン船で遠征し、寒さでみんなカゼを引いてしまった。しかも、河豚は二匹しか釣れず、その一匹を私がせしめたというわけである。多分、腕よりも偶然だったのであろう。エビのエサを使って、深い海底に、オ・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
出典:青空文庫