・・・すると果然翁の顔も、みるみる曇ったではありませんか。 しばらく沈黙が続いた後、王氏はいよいよ不安そうに、おずおず翁へ声をかけました。「どうです? 今も石谷先生は、たいそう褒めてくれましたが、――」 私は正直な煙客翁が、有体な返事・・・ 芥川竜之介 「秋山図」
・・・と書いてある。果然お君さんはほとんど徹夜をして、浪子夫人に与うべき慰問の手紙を作ったのであった。―― おれはこの挿話を書きながら、お君さんのサンティマンタリスムに微笑を禁じ得ないのは事実である。が、おれの微笑の中には、寸毫も悪意は含まれ・・・ 芥川竜之介 「葱」
・・・欧化気分がマダ残っていたとはいえ、沼南がこの極彩色の夫人と衆人環視の中でさえも綢繆纏綿するのを苦笑して窃かに沼南の名誉のため危むものもあった。果然、沼南が外遊の途に上ってマダ半年と経たない中に余り面白くない噂がポツポツ聞えて来た。アアいう人・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・ 果然革命は欧洲戦を導火線として突然爆発した。が、誰も多少予想していないじゃないが余り迅雷疾風的だったから誰も面喰ってしまった。その上、東京の地震の火事と同様、予想以上に大きくなったのでいよいよ面喰ってしまった。日本は二葉亭の注文通りに・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・声を掛けようかと思ったが鳥を驚かしてはならぬと思うて控えていると果然鴫は立った。要太郎は舌打ちをしたと云う風であったが此方を見て高く笑うた。そして二本並んだ木蔭へ足を投げ出して坐って吾等を招いた。「ドーダネ。マー一服やって縁起を直しては。巻・・・ 寺田寅彦 「鴫つき」
出典:青空文庫