・・・樅はある程度まで成長して、それで成長を止めました、その枯死はアルプス産の小樅の併植をもって防ぎ得ましたけれども、その永久の成長はこれによって成就られませんでした。「ダルガスよ、汝の預言せし材木を与えよ」といいてデンマークの農夫らは彼に迫りま・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・ 哀れな枝は寒い風に吹かれて、恐らく、その年のうちにも枯死するものと思われました。しかるに雪が解けて、春となって、いろ/\の木が芽ぐんだ時分、その杉の木も新緑を芽ぐんだのでした。二たび子供等は、校庭へ出て遊ぶようになりました。 その・・・ 小川未明 「自分を鞭打つ感激より」
・・・おそらく枯死からはそう遠くない彼らが! 日光浴をするとき私の傍らに彼らを見るのは私の日課のようになってしまっていた。私は微かな好奇心と一種馴染の気持から彼らを殺したりはしなかった。また夏の頃のように猛だけしい蠅捕り蜘蛛がやって来るのでも・・・ 梶井基次郎 「冬の蠅」
・・・サンボリスムは、枯死の一瞬前の美しい花であった。ばかどもは、この神棚の下で殉死した。私もまた、おくればせながら、この神棚の下で凍死した。死んだつもりでいたのだが、この首筋ふとき北方の百姓は、何やらぶつぶつ言いながら、むくむく起きあがった。大・・・ 太宰治 「一日の労苦」
・・・それが、役目がすむと直ちに枯死してしまった、あとは、次の世代を胎んだ雌のひとり天下になると見える。蜜蜂やかまきりの雄の運命ともよく似たところがあるのである。蜜蜂の雄虫は生殖の役目を果たすと同時に空中から石のごとく墜ちて死ぬ。かまきりの雄は雌・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・というのは、何より適切に噴火のために草木が枯死し河海が降灰のために埋められることを連想させる。噴火を地神の慟哭と見るのは適切な譬喩であると言わなければなるまい。「すなわち天にまい上ります時に、山川ことごとに動み、国土皆震りき」とあるのも、普・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・ 正面の築山の頂上には自分の幼少のころは丹波栗の大木があったが、自分の生長するにつれて反比例にこの木は老衰し枯死して行った。この絵で見ると築山の植え込みではつつじだけ昔のがそのまま残っているらしい。しかし絵の主題になっている紅葉は自分に・・・ 寺田寅彦 「庭の追憶」
・・・あの一見枯死しているような豆のさやの中に、それほどの大きな原動力が潜んでいようとはちょっと予想しないことであった。この一夕の偶然の観察が動機となってだんだんこの藤豆のはじける機巧を研究してみると、実に驚くべき事実が続々と発見されるのである。・・・ 寺田寅彦 「藤の実」
・・・そうして大旱に逢った時に、深層の水分を取ることが出来なくなって、枯死してしまう。 少し唐突な話ではあるが、これと同じように、目前の利用のみを目当てにするような、いわゆる職業的の科学教育は結局基礎科学の根を枯死させることになりはしないか。・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
・・・れら質的研究の十中の一から生まれうべき健全なるものの萌芽が以上に仮想したような学風のあらしに吹きちぎられてしまうような事があり、あるいは少しの培養を与えさえすればものになるべきものを水をやらないために枯死させてしまうようなことがあったとした・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
出典:青空文庫