・・・わたしの信ずるところによれば、或は柱頭の苦行を喜び、或は火裏の殉教を愛した基督教の聖人たちは大抵マソヒズムに罹っていたらしい。 我我の行為を決するものは昔の希臘人の云った通り、好悪の外にないのである。我我は人生の泉から、最大の味を汲み取・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・その杯状のものの横腹から横向きに、すなわち茎と直角の方向に飛び出している浅緑色の袋のようなものがおしべの子房であるらしく、その一端に柱頭らしいものが見える。たいていの花では子房が花の中央に君臨しているものと思っていたのに、この植物ではおしべ・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・ 私は奮起して字引と首引き、帳面に自分でわかったと思う翻訳をしてゆくのですが、女学校ではピータア大帝が船大工の習業をしたというような話をよんでいるのですから、どうもデルフィの神殿だとか、破風だとか、柱頭、フィディアス等々を克服するのは容易・・・ 宮本百合子 「写真に添えて」
・・・丁度、美術愛好者が、古代ギリシャ建築の明美な柱列を見た時、心を打れ、何はともあれ、アカンサスの葉で飾られた精緻な柱頭と、単純で力強い柱台とに注意を向けた如く、学徒が、狂暴な程、雑多な原質の目覚める青年期、不思議に還元的色彩を帯びる更年期を特・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
出典:青空文庫