近ごろ近ごろ、おもしろき書を読みたり。柳田国男氏の著、遠野物語なり。再読三読、なお飽くことを知らず。この書は、陸中国上閉伊郡に遠野郷とて、山深き幽僻地の、伝説異聞怪談を、土地の人の談話したるを、氏が筆にて活かし描けるなり。・・・ 泉鏡花 「遠野の奇聞」
・・・に疲れて、誇張した言い方をするなら、ほとんど這うようにして栃木県の生家にたどりつき、それから三箇月間も、父母の膝下でただぼんやり癈人みたいな生活をして、そのうちに東京の、学生時代からの文学の友だちで、柳田という抜け目の無い、なかなかすばしこ・・・ 太宰治 「女類」
・・・ この頃、柳田国男氏の「一つ目小僧その他」を見ると一つ目の神様に聯関して日本の諸地方で色々な植物を「忌む」実例が沢山に列挙されている。その中に胡麻や黍や粟や竹やいろいろあったが、豆はどうであったか、もう一度よく読み直してみなければ見落し・・・ 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
・・・彼は三十四年目で始めて、彼女が有坂イサヲと云う姓名で、籍は二里近く離れた柳田村にあることを知った。 此那奇蹟的関心が沢や婆に払われるには原因があった。仙二の家の納屋をなおした小屋に沢や婆は十五年以上暮していた。一月の三分の二はよその屋根・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・若い女性たちの関心も結婚という課題にじかに向かっていて、婦人公論の柳田国男氏の女性生活史への質問も、五月号では「家と結婚」をテーマとしている。 若い女性の結婚に対する気持が、いくらかずつ変化して来ていると感じたのは、すでにきのう今日のこ・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・の一、二年来の新日本主義的提唱とともに既に顕著な傾向性を示すと共に一般からおのずからなる定評を与えられている諸氏以外に国文学その他の分野では一応は誰しも社会的権威として認めている佐佐木信綱、小宮豊隆、柳田国男、岡崎義恵等の諸氏を加えたことは・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
出典:青空文庫