・・・ 三代目の横井何太郎が、M――鉱業株式会社へ鉱山を売りこみ、自身は、重役になって東京へ去っても、彼等は、ここから動くことができなかった。丁度鉱山と一緒にM――へ売り渡されたものゝ如く。 物価は、鰻のぼりにのぼった。新しい巨大な器械が・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・となるは自然の理なり俊雄は秋子に砂浴びせられたる一旦の拍子ぬけその砂肚に入ってたちまちやけの虫と化し前年より父が預かる株式会社に通い給金なり余禄なりなかなかの収入ありしもことごとくこのあたりの溝へ放棄り経綸と申すが多寡が糸扁いずれ天下は綱渡・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・今金酒造株式会社。どうだい、おどろいたか。僕は、君の手さえ握っているのだ。男か、女か、その区別さえわからないようで、そんな工合で、偉い絵かきとは、言えまい。いいかい、君は、ことし三十一だ。御亭主は、君より年下で、二十六だ。年下の亭主って、可・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・あとで聞くとこれは箱根土地株式会社の作った道路で専用道路だからとの事であった。 峰の茶屋から先の浅間東北麓の焼野の眺めは壮大である。今の世智辛い世の中に、こんな広大な「何の役にも立たない」地面の空白を見るだけでも心持がのびのびするのであ・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・これも書物が何々株式会社の「商品」であるとすればもとより当然のことである。それで自然に起こる要求は、そういう商品としてでない書籍の供給所を国家政府で経営して大概の本がいつでもすぐに手に入れられるようにしてもらうことはできないかということであ・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ニュウヨウクのメリケン粉株式会社から贈られたのだ。」特務曹長「そうでありますか。愕くべきであります。」特務曹長「次はどれでありますか。」大将「これじゃ、」特務曹長「実にめずらしくあります。やはり支那戦争であります・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・○鬼足袋工業株式会社、資本百万円、寺田淳平。二百六十四名、主に少女工剣劇ファン○職工と女工と別の出入口をもっているところもある。○壁のわきのゴミ箱。○脱衣室のわきの三尺の大窓。○あき地で塀なし。わきから通って、となり・・・ 宮本百合子 「工場労働者の生活について」
・・・ そういう社会をお互に一日も早くつくりたいと、私もペンを武器とし仲間とともに働いているわけですが、K子の例でもわかるとおり、そういう自分が××株式会社の重役とかその弟とか、従弟とかというもの=柳瀬正夢の漫画の人物、所謂アミーになろうとは・・・ 宮本百合子 「ゴルフ・パンツははいていまい」
・・・たとえば鎌倉文庫は出版インフレ時代に経済的ゆとりをもつようになった作家たちが集って、財産税だの新円の問題に処してつくられた株式会社のように見えます。営利ジャーナリズムとして存在しつつ、作品発表の場面も確保してゆく。利潤の循環が行われる仕組で・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ 町ではこの一ヵ月ほど前から、――町架空索道株式会社というものが新しく組織されて、町外れに、停留場とでもいうのか、索道の運転を司りながら、貨物の世話をするところを建てていた。 三里ほど山中の、至って交通の不便な部落から、切石、鉱石、・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫