・・・そこにないあわされて来る自然鑑賞では、作者がアララギの格調というものに即していて、決して生活の歌ほどの独自性に立っていないということは、まことに興味あるところだと感じました。ある作は、生活の歌にある生の感覚の独自さとぴったりしていて、うたれ・・・ 宮本百合子 「歌集『仰日』の著者に」
・・・生れて何も知らぬ吾子の頬に 母よ 絶望の涙をおとすな 格調たかく歌い出されている「頬」忘れかねたる吾子初台に住むときいて通るたびに電車からのび上るのは何のためか 呻きのように母の思いのなり・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・藤村の若菜集は、二十六歳の青年詩人の情熱をもると同時に自らその当時の社会の若々しい格調を響かせたのであった。『若菜集』の序のうたに、藤村は自分の詩作を葡萄の実になぞらえている。この一巻に収められている「草枕」「あけぼの」「春は来ぬ」「潮・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・同時代の作家たちは、次第にバルザックの文学業績の規模の大さ、主題の独特性は感じつつも、彼の時代おくれな正統王党派ぶり、貴族好み、趣味の脂っこい卑俗さ、そして、小説の文章が、格調もなければ、整理もされていず、時に我慢ならなく下手であるというよ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ひどく格調のある正確なひびきであった。それは二人づれの音響であったが、四つの足音の響き具合はぴたりと合い、乱れた不安や懐疑の重さ、孤独な低迷のさまなどいつも聞きつける足音とは違っている。全身に溢れた力が漲りつつ、頂点で廻転している透明なひび・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫