・・・梶原申しけるは、一歳百日の旱の候いけるに、賀茂川、桂川、水瀬切れて流れず、筒井の水も絶えて、国土の悩みにて候いけるに、―― 聞くものは耳を澄まして袖を合せたのである。――有験の高僧貴僧百人、神泉苑の池にて、仁王経を講じ奉らば・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・人形使 たとい桂川が逆に流れましても、これに嘘はござりませぬ。夫人 何か私に望んでおくれ。どうも私は気が済まない。人形使 この上の望と申せば、まだ一度も、もう三度も、御折檻、御打擲を願いたいばかりでござります。夫人 そして、・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・ 田畑を隔てた、桂川の瀬の音も、小鼓に聞えて、一方、なだらかな山懐に、桜の咲いた里景色。 薄い桃も交っていた。 近くに藁屋も見えないのに、その山裾の草の径から、ほかほかとして、女の子が――姉妹らしい二人づれ。……時間を思っても、・・・ 泉鏡花 「若菜のうち」
・・・ その後、宝暦明和の頃、青木昆陽、命を奉じてその学を首唱し、また前野蘭化、桂川甫周、杉田いさい等起り、専精してもって和蘭の学に志し、相ともに切磋し、おのおの得るところありといえども、洋学草昧の世なれば、書籍はなはだ乏しく、かつ、これを学・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾の記」
出典:青空文庫