・・・いや、鴨たると鵜たるを問わず品川沖におりている鳥は僕等の船を見るが早いか、忽ち一斉に飛び立ってしまう。桂月先生はこの鴨の獲れないのが大いに嬉しいと見えて、「えらい、このごろの鴨は字が読めるから、みんな禁猟区域へ入ってしまう」などと手を叩いて・・・ 芥川竜之介 「鴨猟」
・・・ 倭将の一人――小西行長はずっと平壌の大同館に妓生桂月香を寵愛していた。桂月香は八千の妓生のうちにも並ぶもののない麗人である。が、国を憂うる心は髪に挿したまいかいの花と共に、一日も忘れたと云うことはない。その明眸は笑っている時さえ、いつ・・・ 芥川竜之介 「金将軍」
・・・僕はその夜田山花袋、高島米峰、大町桂月の諸氏に初めてお目にかかることが出来た。 ◇ 僕は又滝田君の病中にも一度しか見舞うことが出来なかった。滝田君は昔夏目先生が「金太郎」とあだ名した滝田君とは別人かと思うほど憔悴してい・・・ 芥川竜之介 「滝田哲太郎君」
・・・大町桂月、福本日南等と交友あり、桂月を罵って、仙をてらう、と云いつつ、おのれも某伯、某男、某子等の知遇を受け、熱烈な皇室中心主義者、いっこくな官吏、孤高狷介、読書、追及、倦まざる史家、癇癪持の父親として一生を終りました。十三歳の時です。その・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・与謝野晶子の詩が発表されたとき大町桂月が非国民だと言って当時の『明星』を大批難しました。 最近の十数年間に、日本の婦人作家はどんな戦争反対の活動をしたでしょうか。今日になってみると侵略戦争に反対したモチーフをもっている作品は、例外的にわ・・・ 宮本百合子 「戦争と婦人作家」
・・・日露戦争当時、晶子がこの作品を発表したことを憤って大町桂月が大抗議したことがあった。「変目伝」の作者広津柳浪は、当時の文学者としては西欧風の心理主義作家であったが、ある作品で売国奴・非国民と罵られてから、そういう日本の文化感覚に対して自分の・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
出典:青空文庫