・・・を見れば、女主人公、明子の苦悩と努力とは、とりも直さず、環境のおくれている多くの条件が重荷となって、合理的に、明るく輝しく生き伸びようとする意欲の桎梏となることから生じている。妻として母としてその上に更に作家として歴史の進歩に貢献して行こう・・・ 宮本百合子 「はるかな道」
・・・ ピリニャークのような作家は、日本へ来て芸者を見て、日本の社会における芸者というもののおかれているさまざまの経済的・社会的桎梏を一つも洞察しなかった。芸者というものを、全婦人があこがれている文化の美しい化身であるかのように書いた。こ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
・・・ 義理人情は、芸術化の過程にあって、謂わば社会的桎梏に対する人間性の逆説的な強調として、初めて芸術の要因たり得たのであった。義理人情が芸術の要因の重きを占めるようになった徳川権力確立以後の日本人の芸術は、感傷と悲壮との過剰に苦しめられて・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・その情熱ぬきに、子供の側から見れば、それが多くの場合歴史的な桎梏となっている今日の親子関係の旧套を、そのまま肯定しようとするのであれば、その間には腑に落ちかねる飛躍があると思う。貞操の観念に対して女は久しく受動的であり、無智であったことから・・・ 宮本百合子 「未開の花」
・・・ 結婚の問題にあたって、私たちを深刻に考えこませる托児所がないということ、炊事、洗濯が社会化された家事になっていないことが、離婚の場合、また切実な問題となり、桎梏となって来る。戦争による未亡人の生活の堂々めぐりのいたましさは、実に多くこ・・・ 宮本百合子 「離婚について」
・・・第二巻で経験する苦しみと危機との描写は、現代においても若い精神が教育とか陶冶とかいう名の下に蒙らなければならない戦慄的な桎梏と虚脱とを語っているのである。「少年時代」の中でトルストイが描いている家庭教師への憎みは貴族の子弟でもその背に笞・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
・・・漱石は、彼が生きた時代と自身の閲歴によって、日本の知識人の日常生活の桎梏となっている封建的なものに、最も切り込んだ懐疑を示した作家であった。けれども、一面では、自分の闘おうとしているものに妥協せざるを得ない歴史の遺産が彼の心の中にあって生き・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・ 武家貴族の生活が婦人を愉しく又苦しい勤労から全く引き離して、しかも完全に政略の犠牲としていたのに反して、より政略の桎梏の少い下級武士や庶民生活の中では、女性の生活が、文盲ながら幾らか明るさ、健全さを持っていたことを、狂言は語っている。・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫