・・・ 私は手短かに『影』の梗概を話した。「その写真なら、私も見た事があるわ。」 私が話し終った時、女は寂しい眼の底に微笑の色を動かしながら、ほとんど聞えないようにこう返事をした。「お互に『影』なんぞは、気にしないようにしましょう・・・ 芥川竜之介 「影」
・・・殊に小説の梗概でも語らせると、多少の身振声色を交えて人物を眼前に躍出させるほど頗る巧みを究めた。二葉亭が人を心服さしたのは半ばこの巧妙なる座談の力があった。 二葉亭は極めて謙遜であった。が、同時に頗る負け嫌いであった。遠慮のない親友同士・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・巻末に貼紙として添付された刷物には、末広君の講演の梗概と著者の Some After-thoughts が述べてある。この書の著者は米国在来のやり方の不備に飽き足らず末広君の色々な考えにすっかり共鳴したからのことと考えられるのである。同君帰・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・海洋に関する物理的事項の重なるものについては近頃出版した拙著『海の物理学』にその梗概を述べておいた。なお直接水産方面に関して、自分の知っているだけの僅少な例を挙げてみると、第一に漁具ことに網の研究である。各種の網糸の強弱弾性やその温度湿度に・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・ただいま本社の人が明日の新聞に出すんだから、講演の梗概を二十行ばかりにつづめて書けという注文でしたが、それは書けないと言って断ったくらいです。それじゃアしゃべらないかというと、現にこうやってしゃべりつつある。しゃべる事はあるのですが、秩序と・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・哲学概論といっても、ロッチェ哲学の梗概に過ぎなかった。その頃ドイツ人でも英語で講義した。中々元気のよい講義をする人で、調子附いて来ると、いつの間にか、英語の発音がドイツ語的となって、ゲネラチョーン・アフタ・ゲネラチョーン*1などとなった。こ・・・ 西田幾多郎 「明治二十四、五年頃の東京文科大学選科」
・・・各新聞に、その梗概がのせられている。政府は、新しい民主憲法を、何故か世界民主国人民の祭日である五月一日に実効発生することをきらって、十一月三日に発布することにきめた。文部省は一億円という尨大な予算を憲法祭のためにとった。新歴史教科書もその関・・・ 宮本百合子 「『くにのあゆみ』について」
出典:青空文庫