・・・それまで実は小説その他のいわゆる軟文学をただの一時の遊戯に過ぎないとばかり思っていたのだが、朧ろ気ながらも人生と交渉する厳粛な森厳な意味を文学に認めるようになったのはこの初対面に由て得た二葉亭の賜物であって、誰に会った時よりも二葉亭との初対・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・イギリスの十九世紀初頭の詩人画家であったウィリアム・ブレークが、独特な水色や紅の彩色で森厳に描いた人格化された天の神秘的な版画も、宇宙に向ってのロマンティックな一種の絵として面白いものだったと思う。 岩波新書で出ている中谷宇吉郎氏の「雪・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・こうして森厳な伝統の娘、ハプスブルグのルイザを妻としたコルシカ島の平民ナポレオンは、一度ヨーロッパ最高の君主となって納まると、今まで彼の幸福を支えて来た彼自身の恵まれた英気は、俄然として虚栄心に変って来た。このときから、彼のさしもの天賦の幸・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫