・・・――方角を教えた。 ずんぐりが一番あとだったのを、孫八が来て見出したとともに、助けたのである。 この少年は、少なからぬ便宜を与えた。――検する官人の前で、「――三日以来、大沼が、日に三度ずつ、水の色が真赤になる情報があったであり・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・歿後遺文を整理して偶然初度の原稿を検するに及んで、世間に発表した既成の製作と最始の書き卸しと文章の調子や匂いや味いがまるで別人であるように違ってるのを発見し、二葉亭の五分も隙がない一字の増減をすら許さない完璧の文章は全く千鍜万錬の結果に外な・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・しかし近よって子細に検すると、麦のくきや穂や葉などの、乾いてポキポキとした感じが、日本絵の具でなければ現わせない一種の確かさをもって描かれていた。黄いろい乾いた光沢なども、カンバスの上に油をもってしては、こうは現わせない。この画家の注意深い・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫