・・・また新しい思想が入って来れば、それを検討せずに、たゞちに信ずるという風があります。けれど、それが自分達のものとなるには、それに伴う特異性のあることも考えなければならない。そうした認識と批判とを没しさせる、最大な原因は、今日の資本主義に基点を・・・ 小川未明 「文化線の低下」
・・・果して、彼等の幾何、再検討を請求して、敢て恥ざるものがあるか、ということである。孤行高しとすることこそ、芸術家の面目でなければならぬ、衆俗に妥協し、資本力の前に膝を屈した徒の如きは、表面いかに、真摯を装うことありとも、冷徹たる批評眼の前に、・・・ 小川未明 「ラスキンの言葉」
・・・かような指導書を見出したときには、これをくりかえし、幾度となく熟読し、玩味し、その解答を検討すべきである。手垢に汚れ、ページがほどけるほど首引きするのこそ指導書である。 広く読書することも必要であるが、指導書を精読することは一層大切であ・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・に最も正しく現実が伝えられているか否かは、検討の余地のある問題であるが、こゝには、すくなくとも故意の歪曲と隠蔽はない。将軍も兵卒も、いわゆる「人間」としてとらえられているのである。「肉弾」が過去に於て、一千版以上を重ねたと云われる程、多・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・食卓にのぼる魚の値段を、いちいち妻に問いただし、新聞の政治欄を、むさぼる如く読み、支那の地図をひろげては、何やら仔細らしく検討し、ひとり首肯き、また庭にトマトを植え、朝顔の鉢をいじり、さらに百花譜、動物図鑑、日本地理風俗大系などを、ひまひま・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・従って未来の映画のあらゆる可能性もまたこの根本的な差違の分析によって検討されるであろうと思う。 それにはまず物理的力学的な世界像を構成する要素が映画の上にいかなる形で代表されているかを考えてみるのが一つの仕事である。 映画の観客は必・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・それが近代科学の基礎として採用され運用されるようになって以来いっそうの検討と洗練を加えられて、今日では昔の人の思い及ばなかったような複雑でしかも整然と排列された一大系統を成している。もっともそういう方法は普通の科学の教科書には、あらわにはど・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・これは地形学者の再検討をわずらわしたい問題である。 以上述べたものの多くは、言わば「並行縞」と呼ばれるべき形態のものであったが、このほかになお「放射縞」と言わるべきものがある。もっとも、上述の中でも、噴泉塔の縞や、鈴木君の円板の割れ目な・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
緒言「日本人の自然観」という私に与えられた課題の意味は一見はなはだ平明なようで、よく考えてみると実は存外あいまいなもののように思われる。筆を取る前にあらかじめ一応の検討と分析とを必要とするもののようである。・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・政治一般の方針を示さず、検討せず、どうして公務員法案だけは通してよい法案であることが納得されるだろう。政策のはっきりしない政党を支持しようがない、という現実がアメリカの大統領選挙においても示された。いま政権をもっているということが将来を決定・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
出典:青空文庫