・・・その上に、人種の上から考えても、灰色の昔から、日のいずる方を求めて世界のあらゆる方面から自然にこの極東の島環国に集中した種族の数は決して二通りや三通りでなかったであろうということは、われわれの周囲の人々の顔の中にギリシア型、ローマ型、ユダヤ・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・それと同時に多種多様な民族の色々な文化の流れがこの極東の細長い島環国の中に合流し集注したであろう。従って我等の国語にはあらゆる民族の言語が混淆し融合してしまって、今となっては容易に分析することが出来ないようになってしまっているように思われる・・・ 寺田寅彦 「短歌の詩形」
・・・「それから船便を求めてあてのない極東の旅を思い立ったが、乗り組んだ船の中にはもうちゃんと一人スパイらしいのが乗っていて、明け暮れに自分を監視しているように思われた。日本へ来ても箱根までこの影のような男がつきまとって来たが、お前のおかげで・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・わたくしは其の時までオペラの如き西洋の演芸が極東の都会に於て演奏せられようとは夢にだも思っていなかった。当時我国興行界の事情と、殊にその財力とは西洋オペラの一座を遠く極東の地に招聘し得べきものでないと臆断していたので、突然此事を聞き知った時・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・ 二 アメリカ大統領選挙の結果が発表され、トルーマンの当選が知らされたと時をおなじくして、東京の市ヶ谷では、極東軍事裁判の最終段階の法廷が再開された。トルーマンが政策として、平和のための強国間の協力、アメリ・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・ 風景は、モスクワを出た当座の豊饒な黒土地方、中部シベリアの密林でおおわれた壮厳な森林帯の景色とまるで違い、寂しい極東の辺土の美しさだ。うちつづく山のかなたは、モンゴリア共和国である。 十一月二日。晴れたり曇ったり。 列車の・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・でしょうが極東裁判で天皇が責任をもたないということを明瞭にされて大変によろこんだのは誰だったでしょう、国民はそれをよくしっている。 私達常識人からみると、これは一公人として無能力であったことを世界に証明してもらってありがたいということで・・・ 宮本百合子 「泉山問題について」
・・・―― ところが、四月号の『中央公論』に「極東情勢の新展開と日本」という座談会記事がある。ニューヨーク・タイムズ東京支局長リンゼー・パロット氏、AP東京支局長ラッセル・ブラインズ氏に対して日本人として鈴木文史朗氏が出席している、肩書はリー・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・ 例えば一九二九年の夏、東支鉄道の問題が決裂して、ソ同盟と中国との国境で軍事行動が行われた時、ソヴェト同盟は極東特派軍を送った。この階級的軍隊は中国の村落を占領すると、先ずそこで何をやったであろうか。住民の逃げた後の民家を掠奪から保護し・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・「極東委員会の、ソヴィエト、中国、フィリッピン等の各国代表から猛烈な反対を受けることは十分承知し」ながら、「アメリカが日本に対し寛大な政策で臨もうとしている」のである。 集中排除法がきまったとき、日本の資本家によってそれは勤労階級に・・・ 宮本百合子 「正義の花の環」
出典:青空文庫