・・・……勝手な極道とか、遊蕩とかで行留りになった男の、名は体のいい心中だが、死んで行く道連れにされて堪るものではない。――その上、一人身ではないそうだ。――ここへ来る途中で俄盲目の爺さんに逢って、おなじような目の悪い父親があると言って泣いたじゃ・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・おとよさんのためならおら罪人になってもえい。極道人になってもえい。それでおとよさんさええいと思っててくれるなら。ああ困った。 省作はとうとう鶏の鳴くまで眠れなかった。幾百回考えても、つながれてる犬がその棒をめぐるように、めぐっては元へ返・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・ 私は未だ極道な青年だった。船員が極り切って着ている、続きの菜っ葉服が、矢っ張り私の唯一の衣類であった。 私は半月余り前、フランテンの欧洲航路を終えて帰った許りの所だった。船は、ドックに入っていた。 私は大分飲んでいた。時は・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・「やっぱり極道すると、碌な死にざま出来やせんなア。」とお霜は云った。「棺桶どうする。」と秋三はまた云い出した。「箱棺で好かろが。あれなら三円位で出来るしな。」「寝棺はどうや、もっと安かろが?」「寝棺は高い高い。どんねに安・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫