・・・決して卑しく求むべきではないし、最上とか何とか先入的な価値の概念は持つべきでないし、同時に、恋愛の本質に素直でそこから自分の誠実さが感じ理解出来るだけのものを余りなく得て全生活を浄め豊かにするだけの、視野の宏大な愛、人間、自分への信任が大切・・・ 宮本百合子 「愛は神秘な修道場」
・・・とから派生して、日本の作家はこれまであまり個々の才能を過大に評価しすぎたし、文学創造の過程にある心的な独自性、ほかの精神活動にないメンタルな特性の主張を、おおざっぱに文学の純粋性だの、文学性だのという概念でかためてしまってきた。それというの・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・ 作者は、所々で、信玄を、英雄的概念から脱した人間らしい一性格として扱おうとしているらしい暗示を感じさせる。同じ早苗姫を我ものとする為には親子の離反を厭わず、家国の安危を度外視するにしても、従来のように其動機を只外面からのみ照して、信玄・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・のタイトルは何という名であったろうか。それなどは、リリアン・ギッシュの持味として演技の落付き、重々しい美はあったがシナリオ全体としては従来の「支那街」の概念から一歩も脱していなかった。東洋のグロテスクな美、猟奇心というものが主にされていたの・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
・・・ こう云う心持は愚痴とか厭味とか云う詞の概念とは大へんに違っていると信じています。いつか私は西洋にある詞で、日本に無い詞がある、随ってそういう概念があちらにあって、こちらに無いと云うような事を話した事がありました。縦令両方にその詞はあっ・・・ 森鴎外 「Resignation の説」
・・・ただそれのみの完成にても芸術上に於ける一大基礎概念の整頓であり、芸術上に於ける根本的革命の誕生報告となるのは必然なことである。だが、自分はここではその点に触れることは暗示にとどめ、新感覚の内容作用へ直接に飛び込む冒険を敢てしようとするのであ・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・また Fetisch という概念がアフリカの宗教の象徴として発明された。呪物崇拝などということは全くのヨーロッパ製である。ニグロ・アフリカのどこを探したってニグロの間には呪物の観念などは存していない。 こういうわけで、「野蛮なニグロ」と・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
・・・というところに、我々は非常な興味を覚える。 が、『辰敬家訓』の一層顕著な特徴は、「算用」という概念を用いて合理的な思惟を勧めている点である。彼はいう、「算用を知れば道理を知る。道理を知れば迷ひなし」。その道理というのは、自然現象の中にあ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・ 彼らは概念的であることを非常にきらう。そうして彼ら自身の感じ方がすでに概念的であることには気づかない。二 私はここで「自然」の語義を限定しておく必要を感ずる。ここに用いる「自然」は「人生」と対立せしめた意味の、あるいは・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・という概念をすっかり変えなくてはならなくなる。ここに作り出された「人の形」はただ人形使いの運動においてのみ形成される形なのであって、静止し凝固した形象なのではない。従って彫刻とは最も縁遠いものである。 たぶんこの事を指摘するためであった・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫