・・・ 以上はただ典型的な二、三種のものについて、極めて概括的な考え方をしてみたに過ぎないので、実際の作品について云えば、種々複雑な問題が起るのは当然の事である。従って前述の考えにも幾多の変更や洗煉を加える必要の起る事も勿論である。ただこうい・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・ 私のこのはなはだ不完全に概括的な、不透明に命題的な世迷い言を追跡する代わりに、読者はむしろ直接に、たとえば猿蓑の中の任意の一歌仙を取り上げ、その中に流動するわが国特有の自然環境とこれに支配される人間生活の苦楽の無常迅速なる表象を追跡す・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・とができないために、上下とか優劣とか持ち合せの定規で間に合せたくなるのは今申す通り門外漢の通弊でありますが、私の見るところでは豈独り門外漢のみならんやで、専門の学者もまたそう威張れた義理でもないような概括をして平気でいるのだから驚かれるので・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・したがって文学全体に渉っての御話をするときには今少し概括的に出て来なければならぬ訳です。これから追々そこまで漕ぎつけて行きます。 かく分化作用で、吾々は物と我とを分ち、物を分って自然と人間と超感覚的な神とし、我を分って知、情、意の三とし・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・――二つのものの性質を概括していうと、あなた方の方は規律で行き、私どもの方は不規律で行く。その代り報酬は極悪い。金持になる人、なりたい人は、規律に服従せねばならない。あなた方の方は mechanical science の応用で、私どもの方・・・ 夏目漱石 「無題」
・・・○その特色を一言で概括したら、どうなるだろうと考えると、――固よりいろいろあり、また例のごとく長々と説明したくなるが――極めて低級に属する頭脳をもった人類で、同時に比較的芸術心に富んだ人類が、同程度の人類の要求に応ずるために作ったものを・・・ 夏目漱石 「明治座の所感を虚子君に問れて」
・・・此の世に満々たる美しさ、愛すべきものを、彼はたっぷりした資質に生れ合わせた男らしく、どれものこさず、ぶつかり合わず、調和そのものに歓喜を覚えるような概括で、自分の芸術に生かしてみたく思ったのだろう。そこから出発して宗達は賢くも、樹木、流木、・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・しかし、概括して、民主的方向へ、といわれている。民主的というのは、どういうことだろう。 この不幸な由紀子さんとその赤子との場合を例にとったならば、どういう風に全事情が理解され、取扱われたとき民主的といい得ただろうか。 検事局の係検事・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
斯ういう感情上のことは、各人各様であって、「男子は」「婦人は」と概括的に考えると、至極平凡なつまらないものになってしまいます。此世の何より、金持がいい人もあろう。美貌の異性がよい人もあろう。知識的なのが第一な人もあるでしょ・・・ 宮本百合子 「異性の何処に魅せられるか」
・・・佐田の一生にとって、即ち小説としての芸術的概括の点からいってもこの瞬間は緊張した、真面目なるべきモメントである。それにもかかわらず、作者は「彼はちょっと悲壮な気持で第一声をはなった。『では質問に入りますから、判らぬところがあったら……』」云・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
出典:青空文庫