・・・同時に先生を唯一の標準にすることの危険を、時々は怖れもした。○それから僕はいろんな事情に妨げられて、この正月にはちっとも働けなかった。働いた範囲においても時間が足りないので、無理をしたのが多い。これは今考えても不快である。自分の良心の上・・・ 芥川竜之介 「校正後に」
・・・「ではこの『より善い半ば』や『より悪い半ば』は何を標準に区別しますか? こう言う問題を解決する為には、これも度たび申し上げた価値論へ溯らなければなりません。価値は古来信ぜられたように作品そのものの中にある訳ではない、作品を鑑賞する我我の・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・「それは早田からお聞きのことかもしれんが、おっしゃった値段は松沢農場に望み手があって折り合った値段で、村一帯の標準にはならんのですよ。まず平均一段歩二十円前後のものでしょうか」 矢部は父のあまりの素朴さにユウモアでも感じたような態度・・・ 有島武郎 「親子」
・・・なにしろあいつの金力が美の標準をめちゃくちゃにするために使われていたんだ。そのために俺たちは三度のものも食えないほどに飢えてしまうんだ。ドモ又が死んで色づけのベトーヴェンになる結果に陥ったんだ。ドモ又の命が買いもどせるくらいの罰金を出させな・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・ 堺氏は「およそ社会の中堅をもってみずから任じ、社会救済の原動力、社会矯正の規矩標準をもってみずから任じていた中流知識階級の人道主義者」を三種類に分け、その第三の範囲に、僕を繰り入れている。その第三の範囲というのは「労働階級の立場を是認・・・ 有島武郎 「片信」
・・・しかしすでに国家が今日まで我々の敵ではなかった以上、また自然主義という言葉の内容たる思想の中心がどこにあるか解らない状態にある以上、何を標準として我々はしかく軽々しく不徹底呼ばわりをすることができよう。そうしてまたその不徹底が、たとい論者の・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・しかし詩はすべての芸術中最も純粋なものだということは、蒸溜水は水の中で最も純粋なものだというと同じく、性質の説明にはなるかもしれぬが、価値必要の有無の標準にはならない。将来の詩人はけっしてそういうことをいうべきでない。同時に詩および詩人に対・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・ 人間に対する用意は、まず畳を上げて、襖障子諸財一切の始末を、先年大水の標準によって、処理し終った。並の席より尺余床を高くして置いた一室と離屋の茶室の一間とに、家族十人の者は二分して寝に就く事になった。幼ないもの共は茶室へ寝るのを非常に・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・端書だからツイ失くしてしまって今では一枚しか残っていないが、「上田の附文標準語に当惑し」、「先生の原稿だぞと委員云ひ」というようなのがあった。前者は万年博士が標準語に関する大論文を発表した際で、標準語という言葉がその頃の我々の仲間の流行語と・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・即ち、母親の言葉は、即ち将来への指導となり、その愛情に満ちた温顔は、美の標準となり、また、母のしたことはすべて正しいと信じ、それが子供の心となり、血となるからです。 されば、聡明な母親は、子供のために、自からの向上を怠ってはならぬ。言う・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
出典:青空文庫