・・・とを対比させて見れば、後者のほうが前者よりもより多く創作的であり、前者のほうがひと山百文の模造物への中間にあるものと考えられるであろう。 ただいわゆる「創作」は概して言えばだいたいに「話の筋」が通っており、数行のレジュメで要約されるスト・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・おおかた葉をふるうた桜の根には取りくずした木材が乱雑に積み上げられて、壁土が白く散らばった上には落葉が乱れている。模造日本橋は跡方もなくなって両側の土堤も半ば崩れたのを子供等が駆け上り駆け下りて遊んでいる。観覧車も今は闃として鉄骨のペンキも・・・ 寺田寅彦 「障子の落書」
・・・カンジーにあるという仏足や仏歯の模造がある。本堂のような所にはアラバスターの仏像や、大きな花崗石を彫って黄金を塗りつけた涅槃像がある。T氏はこれに花を供えて拝していた。 帰途に案内者のハリーがいろいろの人の推薦状を見せて自慢したりした。・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・私は二科会で何故こういう明白な模造を陳列させるかがどうしても解らない。 その他にも大分同類がある。同じ人で静物は甲の仏人、人物は乙の仏人といったように真似の使い分けをしているのもある。 椎塚氏の絵には何時もながら閉口するが、しか・・・ 寺田寅彦 「二科会その他」
・・・あれを見ると自分はいつでもドイツで模造した九谷焼きを思い出す。 自分の専門に関係した科学の書籍をあさって歩く時の心持ちは一種特別なものである。まじめであると同時に at home といったような心持ちであるが、しかしそこには自分の頭にあ・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・世界の元首たちが、スターリングラード市民の名誉のためにおくりものをした品々と云えば、中性の剣とか古代の楯の模造品であり、その記念帳にかかれた文字は、「世界の英雄たち」とか「文明の防衛者達」という字である。スタインベックは、「これらはすべて極・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・しかもそこまでを、出来るだけ迷路にひっぱって、模造の山河をしつらえて、引きまわされるのを承知して引きまわされてゆく面白さである。 科学的構造が精密であればあるほど謂わば嘘の過程に複雑さがあって、面白いのだろう。或る意味での知的デカダンス・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・あながち志壮なるが故にではなく、ごく古くからありふれた習俗の枠にはまった考えかたで、恋愛と青春の放埒と漠然混同し、その場その場で精神と肉体とを誘い込む様々の模造小路を彷徨しつつ、身を堅める時は結婚する時という風な生き方である。 そういう・・・ 宮本百合子 「成長意慾としての恋愛」
この間うちから引越しさわぎで、あっちの古本の山、こっちの古本のかたまりといじりまわしているうちに、一冊、黒い背布に模造紙の表紙をつけた『女学雑誌』の合本が出て来た。かたい表紙をあけてみると、教育という見出しで遺伝についての・・・ 宮本百合子 「本棚」
出典:青空文庫