・・・ 日本女はゆっくりその広場を横切り、十月二十五日通りへ出た。家並の揃った、展望のきく間色の明るい街を、電車は額に照明鏡を立てたドクトルみたいなかっこうで走っている。 年経た、幹の太い楡の木がある。その濃い枝の下に、新聞雑誌の売店、赤・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・日本の民主化という窓は明日に向って明るく開かれているけれども、その国を横切りつつある私達の足もとには長い歴史が今日に齎している雑多な矛盾と障碍とがある。 青年の生活を思う時、私達の心には一口には言い現わせないいとおしみと希望とがある。こ・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・四辻を横切りながら、自分の乗ろうとする電車の方ばかりに目をつけている。買いものの紙包みを持ち、小さい子供の手を引いた婦人の口元や眼には殆ど必死らしい熱心さがある。気の利いた外国風の束髪で胸高に帯をしめ、彼女のカウンタアの前ではさぞ気位の高い・・・ 宮本百合子 「粗末な花束」
・・・ミーチャは元気な眼つきで、中庭を横切り、むこうの端の建物の翼の戸をあけて内へ入った。その入口と並んで、こっちから、植木鉢が五つ並んだ明るい窓が見えた。ミーチャやその他の多勢の子供が一日暮す幼稚園の窓だ。 ミーチャと別れたお母さんは、急ぎ・・・ 宮本百合子 「楽しいソヴェトの子供」
出典:青空文庫