・・・『清盛横死』と云うのもある。『康頼往生』と云うのもある。おれはさぞかし康頼も、喜ぶじゃろうと思うたが、――」「それは御立腹なすったでしょう。」「康頼は怒るのに妙を得ている。舞も洛中に並びないが、腹を立てるのは一段と巧者じゃ。あの男は・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・わたくしは、いま手もとに統計をもたないけれど、病死以外の不慮の横死のみでも、年々幾万にのぼるか知れないのである。 鰯が鯨の餌食となり、雀が鷹の餌食となり、羊が狼の餌食となる動物の世界から進化して、まだ幾万年しかへていない人間社会にあって・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・坑の瓦斯で窒息して死ぬる、私慾の為めに謀殺される、窮迫の為めに自殺する、今の人間の命の火は、油の尽きて滅するのでなくて、皆な烈風に吹消さるるのである、私は今手許に統計を有たないけれど、病死以外の不慮の横死のみでも年々幾万に上るか知れないので・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・あの早川賢が横死を遂げた際に、同じ運命を共にさせられたという不幸な少年一太のことなぞも、さかんに書き立ててあった。またかと思うような号外売りがこの町の界隈へも鈴を振り立てながら走ってやって来て、大げさな声で、そこいらに不安をまきちらして行く・・・ 島崎藤村 「嵐」
出典:青空文庫