・・・同じく、文化を名目とはするものゝ、珍らしい、特志の出版家でもないかぎり、出版は、資本主義機構上の企業であり、商業であり、商品であり、また今日の如く、大衆を顧客とするには、著者の趣味如何にかゝわらず、粗製濫造も仕方のないことになるのです。・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・ すべての精神的に貴重なものが、そうであるように、恋愛もまた社会状態、経済的機構のいびつのために、みじめに押しまげられている。恋愛についてこうした理想的な要請をする場合に、私たちはそのことを考えると力抜けがするのを感じる。これはどうして・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・そこではあらゆる文学上の原理に反して、作品の基礎をなすものは、諸々の情熱の機構でも、出来事の必然的な継続でもなく、裸形にされた純粋の偶然というものなのである。此の喜劇を読んでゆくと、秩序も構図もなく寄せ集められた「雑多な事実」に満ちている新・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・質屋というものの存在、機構を知ったのだ。どうしてもその着物を母のお目に掛けなければならぬ窮地におちいった時には、苦心してお金を都合して兄に手渡す。勝治は、オーライなどと言って、のっそり家を出る。着物を抱えてすぐに帰って来る事もあれば、深夜、・・・ 太宰治 「花火」
・・・それほどに平凡な月並み、日並み、夜並みの市井の些事がカメラと映写機のレンズをくぐり録音器の機構を通過したというだけでどうして「評判の映画」となり、世界じゅうの常設館に渡り渡って人を呼ぶであろうか。もちろん観客の内の一部はたぶんそれが評判の映・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ただし、このトーキー器械の科学的機構は未完成である。言語が聞き取れないために簡潔な筋のはこびが不明瞭になる場所のあるのは惜しい。 九 カルネラ対ベーア 拳闘というものはまだ一度も実見したことがない。ただ、時々映画・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・もっとも物理的機構にたよる活動映画では、物質的実在世界の未来は写されないし、フィルムに固定されなかった過去は永久に映出し得られない。しかし心の世界の過去と未来はいろいろな絵巻物の紙面に自由に展開されているからおもしろい。「世界の一億年」と名・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・ 写真電送機械の機構にもやはり同様な原理が応用されている。この場合には土器を漏れる水の代りにフィルムを巻いた回転円筒が使われ、棒に刻んだ線を人間が眼で見て烽火を挙げる代りに真空光電管の眼で見た相図を電流で送るのである。 自働電話の送・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・しかし、この、近代科学から見放された人間の感覚器を子細に研究しているものの目から見ると、これらの器官の機構は、あらゆる科学の粋を集めたいかなる器械と比べても到底比較にならないほど精緻をきわめたものである。これほど精巧な器械を捨てて顧みないの・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・死んだ無機的団塊が統整的建設的叡知の生命を吹き込まれて見る間に有機的な機構系統として発育して行くのは実におもしろい見物である。 こういう場合に傍観者から見て最も滑稽に思われることは、この有機的体系の素材として使用された素材自身、もしくは・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
出典:青空文庫