・・・ 以上を要約するに、現実に立脚した、奔放不覊なる、美的空想を盛り、若しくは、不可思議な郷土的な物語は、これを新興童話の名目の下に、今後必ずや発達しなければならぬ機運に置かれています。いまの児童の読物のあまりに杜撰なる、不真面目なる、・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・茶道にも機運というものでがなあろう、英霊底の漢子が段に出て来た。松永弾正でも織田信長でも、風流もなきにあらず、余裕もあった人であるから、皆茶讌を喜んだ。しかし大煽りに煽ったのは秀吉であった。奥州武士の伊達政宗が罪を堂ヶ島に待つ間にさえ茶事を・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・大量生産の機運に促されて、廉価な叢書の出版計画がそこにも競うように起こって来たかと思いながら、日本橋手前のある地方銀行の支店へと急いだ。郷里の山地のほうにいる太郎あてに送金するには、その支店から為替を組んでもらうのが、いちばん簡単でもあり、・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・既にこの数年の間にかほど進歩の機運が熟するとしたなら、突然それを阻害する事情の起らない限りは、文芸院などという不自然な機関の助けを藉りて無理に温室へ入れなくても、野生のままで放って置けば、この先順当に発展するだけである。我々文士からいっても・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・一九四八年のなか頃から、国内にたかまってきている民族自立と世界平和と、ファシズムに反対する文化擁護の機運は、決して一部の人の云っているようにジャーナリズムの上の玩具ではない。こんにち、平和を支持し、ファシズムに反対する作家たちの一人一人が、・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・ パリには二月革命の機運に乗じて母国解放運動を起そうとして、各国の亡命者たちが集っていた。共産主義者同盟の人々の多くがドイツに帰って、さまざまの面で活動しはじめた。カールはドイツの中でも労働者の自覚が一番進んでいるケルン市に行った。二人・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ 一体、日本の現代文学の分野で、これだけあまたの賞というものはいつ頃、どのような社会の事情、文学の機運によって生れて来たものであろうか。文学に関する賞についてだけ考えて見ると、これらの賞が、明治から大正年代にかけてはまだ殆どなかったとい・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・ 明治文学の再評価の機運があることや、不安の呼び声の裡に方向を失っている若手のスランプが刺戟となったりして、自然主義以来の老作家たちが、それぞれ手練の作品をひっさげ、数年の沈黙を破って再び出場して来たことである。島崎藤村は明治文学の記念・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ ヨーロッパ大戦後の、万人の福利を希うデモクラシーの思想につれて、民衆の芸術を求める機運が起って『種蒔く人』が日本文学の歴史の上に一つの黎明を告げながら発刊されたのは大正十一年であった。ロマンティックな傾向に立って文学的歩み出しをしてい・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・そのものが地上にふかく舞い下りて、地の塩とならないにしても、その刺戟から更に新鮮な機運がわき出て、一九三三年ごろエリカ・マンがナチス政権のもとで組織していた「ペッパーミル」に似た演劇団が生れるかもしれない、そういうところへまで思いをはせれば・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
出典:青空文庫