・・・そして国境外では、サヴエート同盟に物資が欠乏していると、でたらめを飛ばした。 一方では、飲酒反対、宗教反対のピオニールのデモを見習った対岸の黒河の支那の少年たちが、同様のデモをやったりするのに、他方どうしても、こちらの、すきを伺っては、・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・ドレフュー事件の際に於ける仏国軍人の盲従は、未だ以って彼等の道心欠乏を証するに足らずと。果して然る乎。 幸徳秋水 「ドレフュー大疑獄とエミール・ゾーラ」
・・・ころは嬉しくたまたまかけちがえば互いの名を右や左や灰へ曲書き一里を千里と帰ったあくる夜千里を一里とまた出て来て顔合わせればそれで気が済む雛さま事罪のない遊びと歌川の内儀からが評判したりしがある夜会話の欠乏から容赦のない欠伸防ぎにお前と一番の・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・いっそうおもしろい事実はそもそも俳諧の本場であるわが日本の映画が、もっとも俳諧の欠乏したアメリカ映画にそっくりな手法ばかりを墨守していることである。 ともかくもルネ・クレールの映画のおもしろみを充分に味わうには、その中に含まれた俳諧的要・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ しかしこのできるはずのことがなかなか容易にできないのは多くの場合に群集が周章狼狽するためであって、その周章狼狽は畢竟火災の伝播に関する科学的知識の欠乏から来るのであろう。火がおよそいかなる速度でいかなる方向に燃え広がる傾向があるか、煙・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・ しかし風呂に限らず、われわれの日常生活でわれわれの科学的知識の欠乏のために色々な損失をし、色々な危険を冒していることは数え上げればその外にもずいぶん沢山にあるであろうと思われる。普通教育にも理科の課程がかなり豊富にあるようであるから、・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・ この母熊の肉は探険隊員のあまたの食卓をにぎわすと同時に隊員のビタミン欠乏症を予防する役に立った。子熊のほうはたぶんそのうちに東京の動物園に現われ檻の前の立て札には「従来捕獲されたる白熊の中にて最高緯度の極北において捕獲されたるものなり・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・当該課目における智識が欠乏するためではない、当該課目以外の智識が全然欠乏しているからである。ただ欠乏しているからではない。その結果としていらぬところまでのさばり出て、要もない課目を打ちのめさねばやまぬていの勇気があるから迷惑なのである。・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・の捷径を棄てて、几帳面な塗抹主義を根気に実行したとすれば、拙の一字はどうしても免れがたい。 子規は人間として、また文学者として、最も「拙」の欠乏した男であった。永年彼と交際をしたどの月にも、どの日にも、余はいまだかつて彼の拙を笑い得るの・・・ 夏目漱石 「子規の画」
・・・自分から見ると、重吉のお静さんに対する敬意は、この過去三か月間において、すでに三円がた欠乏しているといわなければならない。将来の敬意に至ってはむろん疑問である。 夏目漱石 「手紙」
出典:青空文庫