・・・某氏の激励至らざるなく、それでようやく欠員の補充もできた。二回目には自分は最後に廻った。ことごとく人々を先に出しやって一渡り後を見廻すと、八升入の牛乳鑵が二つバケツが三箇残ってある。これは明日に入用の品である。若い者の取落したのか、下の帯一・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・編輯員の二人までがおりから始まった事変に召集されて、欠員があったのだ。こんどは怠けずこつこつと勤めて二年たつと、編輯長がまた召集されて、そのあとの椅子へついた。その秋大阪に住んでいるある作家に随筆を頼むと、〆切の日に速達が来て、原稿は淀の競・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・そうして今急にあすこに欠員ができて困ってるというから、当分の約束で行くのです、じきまた帰ってきますと、あたかも未来が自分のかってになるようなものの言い方をした。自分はその場で重吉の「また帰ってきます」を「帰ってくるつもりです」に訂正してやり・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・「されどこの一件のことはファブリイス夫人こころに秘めて族にだに知らせたまわず、女官の闕員あればしばしの務めにとて呼び寄せ、陛下のおん望みもだしがたしとてついにとどめられぬ」「うき世の波にただよわされて泳ぐ術知らぬメエルハイムがごとき・・・ 森鴎外 「文づかい」
出典:青空文庫