・・・まだ胸は支えているが、兎に角お前を歓迎する。しかし何の用があって此処へ来たのだ。死。ふむ。わしの来るのには何日でも一つしか用事はないわ。主人。まだそれまでには間があるはずだ。一枚の木の葉でも、枝を離れて落ちるまでには、たっぷり木の汁・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・ 余は行脚的旅行は多少の経験があるが、しかしこの紀行にあるように各地で歓迎などを受ける旅行はまだした事がない。毎日毎日歓迎を受けるのは楽しい者であるか苦しい者であるか余にはわからぬが時としてはうるさい事もあるであろう。けれども一日の旅行・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
・・・「ことに肥ったお方や若いお方は、大歓迎いたします」 二人は大歓迎というので、もう大よろこびです。「君、ぼくらは大歓迎にあたっているのだ。」「ぼくらは両方兼ねてるから」 ずんずん廊下を進んで行きますと、こんどは水い・・・ 宮沢賢治 「注文の多い料理店」
・・・海岸の人たちはわたくしのような下給の官吏でも大へん珍らしがって、どこへ行っても歓迎してくれました。沖の岩礁へ渡ろうとすると、みんなは船に赤や黄の旗を立てて十六人もかかって櫓をそろえて漕いでくれました。夜にはわたくしの泊った宿の前でかがりをた・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ みなさまはこの数日来、卒業し、送別会、上級学校の新入生としての歓迎会と、若々しい人生の一つの門から他の門へとおくぐりになりました。その間に、いろいろのことをお感じになっていることと思います。そのさまざまな感じのなかで、きょうに生き・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・分別のある人民の大部分が、この上の惨禍を歓迎しようとはしていない。 きょうこそ、日本のわたしたちは、自分たちの求めているものを、はっきり自覚しなければならないと思う。わたしたちの求めているのが民族の平和と自立であり、生活の安定と人間らし・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・と言い聞かされた父の代わりに、このおばあ様の来るのを歓迎している。 これに反して、厄難に会ってからこのかた、いつも同じような悔恨と悲痛とのほかに、何物をも心に受け入れることのできなくなった太郎兵衛の女房は、手厚くみついでくれ、親切に慰め・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・秩父在では己達を歓迎したものだ。己の事を江戸の坊様と云っていた。」「なんでも江戸の坊様に御馳走をしなくちゃあならないというので、蕎麦に鳩を入れて食わしてくれたっけ。鴨南蛮というのはあるが、鳩南蛮はあれっきり食った事がねえ。」「そうし・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・ この古今未曾有の荘厳な大歓迎は、それは丁度、コルシカの平民ナポレオン・ボナパルトの腹の田虫を見た一少女、ハプスブルグの娘、ルイザのその両眼を眩惑せしめんとしている必死の戯れのようであった。 こうして、ナポレオンは彼の大軍を、いよい・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・仏教美術がそこで作られたことももちろんであるが、木材や石材に乏しいこの地方において、漆喰と泥土とを使う塑像のやり方が特に歓迎せられたであろうことも、察するに難くない。とすれば、タリム盆地は、アフガニスタンに次いで塑像を発達させた場所であった・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫