・・・ 武器 正義は武器に似たものである。武器は金を出しさえすれば、敵にも味方にも買われるであろう。正義も理窟をつけさえすれば、敵にも味方にも買われるものである。古来「正義の敵」と云う名は砲弾のように投げかわされた。しかし修辞・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・だから我々もよろしくその真似をしなければならぬ。正義だの、人道だのということにはおかまいなしに一生懸命儲けなければならぬ。国のためなんて考える暇があるものか!」 かの早くから我々の間に竄入している哲学的虚無主義のごときも、またこの愛国心・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・それでいつでも正義のために立つ者は少数である。それでわれわれのなすべきことはいつでも少数の正義の方に立って、そうしてその正義のために多勢の不義の徒に向って石撃をやらなければなりません。もちろんかならずしも負ける方を助けるというのではない。私・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・こうした悲情な物理力に対して、また狂暴なる野蛮力に対して、互に戦うことに於て、いかなる正義が得られ、いかなる真理の裁断が下され得るかということであります。 正義のために殉じ、真理のために、一身を捧ぐることは、もとより、人類の向上にとって・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・ しかし、曾て、どこにも、正義の国というものは見出されなかった。正義のみの村落、もしくは、美のみの郷土というものは、探し出されなかった。たとえば、人間に共通した真理はある。理想はある。感情はある。けれど、それのみの世界というものは、現実・・・ 小川未明 「彼等流浪す」
・・・たゞ、自分の理想に生きるということ、正義のために戦わなければならぬということ、そして、要するに、人間は、いかなる職業にあっても、その心がけが、社会のためにつくすという一事に於て、全的生涯が完うされるものだということを感じているのであります。・・・ 小川未明 「机前に空しく過ぐ」
・・・不死身の麟太郎だが、しかしあくまで都会人で、寂しがりやで、感傷的なまでに正義家で、リアリストのくせに理想家で――やっぱりそんな武田麟太郎が「ひとで」の中に現れていた。悲しい姿であった。日本が悲しくなってしまったように、武田さんも悲しくなって・・・ 織田作之助 「武田麟太郎追悼」
・・・健康なる青年にあってはその性慾の目ざめと同時に、その倫理的感覚が呼びさまされ、恋愛と正義とがひとつに融かされて要請されるものである。 さてかような倫理的要請は必ず倫理学という学に向かうとは限らない。一般に科学というものを知らなかった上古・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・宇宙と自己、社会共同体と自己、自己の使命的仕事、人類愛ならびに正義の問題等は恋愛よりもさらに重き、公なる題目として関心されていなければならない。恋愛よりもより強く、公なるイデーによって、衝き動かされないことは男子の不面目である。恋愛をもって・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ だから女性の人生における受持は、その天賦の霊性をもって、人生を柔げ、和ませ、清らかにし、また男子を正義と事業とに励ますことであろう。 がその女性の霊性というものは、やはり宗教心まで達しないと本当の光りを放つことは期待できない。霊性・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
出典:青空文庫