・・・この人なんか正義の人で、公平で、決して贔負ではない。贔負になるとこんな事が出来ない。かく芸を離れて当人になってくるのは角力か役者に多い。作物になるとさほどでもないようにも見える。 これほどまでに芸術とか文芸とかいうものは persona・・・ 夏目漱石 「無題」
・・・憂の国に行かんとするものはこの門を潜れ。永劫の呵責に遭わんとするものはこの門をくぐれ。迷惑の人と伍せんとするものはこの門をくぐれ。正義は高き主を動かし、神威は、最上智は、最初愛は、われを作る。我が前に物なしただ無窮あ・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・同じく愛を主とした他力宗であっても、猶太教から出た基督教はなお、正義の観念が強く、いくらか罪を責むるという趣があるが、真宗はこれと違い絶対的愛、絶対的他力の宗教である。例の放蕩息子を迎えた父のように、いかなる愚人、いかなる罪人に対しても弥陀・・・ 西田幾多郎 「愚禿親鸞」
・・・ だが、世界中の「正義なる国家」が連盟して、ただ一つの「不正なる軍国主義的国家」を、やっつけている、船舶好況時代であったから、彼女は立ち上ったのだった。 彼女は、資本主義のアルコールで元気をつけて歩き出した。 こんな風だったから・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・善と正義とのためならば命を棄てる人も多い。おまえたちはいままでにそう云う人たちの話を沢山きいて来た。決してこれを忘れてはいけない。人の正義を愛することは丁度鳥のうたわないでいられないと同じだ。セララバアド。お前は何か言いたいように見える。云・・・ 宮沢賢治 「学者アラムハラドの見た着物」
・・・ただ神の正義を伝えんが為に茲に来た。諸君、諸君は神を信ずる。何が故に神に従わないか。何故に神の恩恵を拒むのであるか。速にこれを悔悟して従順なる神の僕となれ。」 博士は最後に大咆哮を一つやって電光のように自分の席に戻りそこから横目でじっと・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・童話にあらわれていた味は、生活的な成長から諷刺に転じて、小熊さんの鋭い反応性と或る正義感と芸術的野望とは、諷刺詩を領野として活躍しはじめた。 技術的に諷刺的表現の或る自由さを身につけた頃、小熊さんや私の属していた文学の団体は解かれて、そ・・・ 宮本百合子 「旭川から」
・・・武装解除した日本として、最後の正義として絶対平和のまもりてとして立つ決心をしているとお思いになりますか? わたしは、これに対する答えを、みなさんの言葉として伺おうと思いません。ただ、どうぞ、あなたがたの若く感じやすい心が、それに対して何と感・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・この思想は正義と仁愛との相即を中核とする点において特徴のあるものであるが、しかし日本では古くから成立していたものであって、この時代に限った現象ではない。この時代として特に注目せらるべき点は、武家の権力政治が数世紀にわたって行なわれた後に、な・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・しかし晩年には神と神の正義との熱心な信者であった。デカダンの詩人が最後に神に帰らなければならなかったことも人の知るところである。彼らは偶像再興の先駆者であったのか。もしすでに彼らが先駆者であったとすれば、二十世紀初頭の兵乱と災厄との前で、人・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫