・・・が、いずれも大差のない武勇談ばかり聞かせられるのには多少の退屈を感じ出した。「そこであの女はどうしたんだね?」 譚はやっとにやにやしながら、内心僕の予想したのと余り変らない返事をした。「あの女は黄の情婦だったんだよ。」 僕は・・・ 芥川竜之介 「湖南の扇」
・・・もっともアレだけの巻数を重ねたのはやはり相当の人気があったのであろうが、極めて空疎な武勇談を反覆するのみで曲亭の作と同日に語るべきものではない。『八犬伝』もまた末尾に近づくにしたがって強弩の末魯縞を穿つあたわざる憾みが些かないではないが、二・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・上杉謙信がそれを見て嘲笑って、信玄、弓箭では意をば得ぬより権現の力を藉ろうとや、謙信が武勇優れるに似たり、と笑ったというが、どうして信玄は飯綱どころか、禅宗でも、天台宗でも、一向宗までも呑吐して、諸国への使は一向坊主にさせているところなど、・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・頼光をはじめ、鎮西八郎、悪源太義平などの武勇に就いては知らぬ人も無いだろうが、あの、八幡太郎義家でも、その風流、人徳、兵法に於いて優れていたばかりでなく、やはり男一匹として腕に覚えがあったから、弓馬の神としてあがめられているのである。弓は天・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・ ある有名な、大変武勇の優れた騎士があった。そうしてあるときその騎士が森の中を歩いていると巨人があらわれて、騎士にむかって言うには「この世の中で、女が一番求めているものは何か」というのであります。 騎士は、たくさんの人と戦い、わたり・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・その思いは、何事もないとき、甘美に耳を傾けていた良人たるオセロの武勇のつよさを連想させ、そこに自分に向ってぬかれる剣を感じ、デスデモーナは、愛と恐怖に分別を失った。きょうのわたしたち女性はデスデモーナのその恐怖やかくしだてを、全くあわれな、・・・ 宮本百合子 「デスデモーナのハンカチーフ」
・・・元帥ほどの人物が、そこを見落していなかったことは、彼の日常生活の簡素な心がけや、歴史の上に箇人的武勇を誇示することを嫌ったというところにあらわれていると見ることが出来る。 ところが、元帥をかこむ社会関係においてその心持は、常に十分活かし・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・群司次郎正ははっきりと自身のペンが軍事御用ペンであることを昨今は証明しているし『文戦』の里村欣三が『改造』の特派員となって軍事記者を勤め「坂本少尉武勇伝」に就いて、どんな階級的批判をも加えず、書立てているのも社民・労農大衆党と等しく、民主主・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
・・・琵琶歌は昔の支那の詩形によっているものであるが、今日、それは勇壮活溌なる日本文化の華として、廟行鎮の武勇歌などに奨励され、中国では世界及東洋文学史の上に一つの足跡をのこす「われらは鉄の隊伍」の歌となって出て来ている。日本詩歌の形として自由律・・・ 宮本百合子 「ペンクラブのパリ大会」
・・・「心配なさらないでようございますよガラハート、私はあなたの武勇を崇拝しているから、答を与えて上げましょう。女がこの世で一番欲しいと思っているものは『独立』です」 そういって女の姿は消えた。 日限が来た時ガラハートは勇んで例の森へ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫