・・・のみならずいずれも武装したまま、幾条かの交通路に腹這いながら、じりじり敵前へ向う事になった。 勿論江木上等兵も、その中に四つ這いを続けて行った。「酒保の酒を一合買うのでも、敬礼だけでは売りはしめえ。」――そう云う堀尾一等卒の言葉は、同時・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・罵るか、笑うか、一つ大声が響いたと思うと、あの長靴なのが、つかつかと進んで、半月形の講壇に上って、ツと身を一方に開くと、一人、真すぐに進んで、正面の黒板へ白墨を手にして、何事をか記すのです、――勿論、武装のままでありました。 何にも、黒・・・ 泉鏡花 「雪霊続記」
・・・「もうみんな武装しよるんだ。」 安部は暗い陰欝な顔をしていた。さきに中隊へ帰って準備をしよう。――彼はそうしたい心でいっぱいだった。しかし、ほかの者を放っておいて、一人だけ帰って行くのが悪いような気がして、立去りかねていた。「また殺・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・即ち、ブルジョアジーを打倒し、収奪し、武装解除するために、プロレタリアを武装させること。プロレタリアートは、たゞブルジョアジーを武装解除した後にのみ、その世界史的見地に叛くことなく、あらゆる武器を塵芥の山に投げ棄てることが出来る。そしてプロ・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・ 兵士達は、始終過激派を追っかけ、家宅捜索をしたり、武器を押収したり、夜半に叩き起され、やにわに武装を整えて応援に出かけたりしなければならなかった。鉄道沿線へは多くに分れて小部隊が警戒に出かけた。栗本の中隊は、汽車に乗ってイイシの警戒に・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・私は武装蜂起に賛成した。ギロチンの無い革命は意味が無い。 しかし、私は賤民でなかった。ギロチンにかかる役のほうであった。私は十九歳の、高等学校の生徒であった。クラスでは私ひとり、目立って華美な服装をしていた。いよいよこれは死ぬより他は無・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・そう考えてみるとドイツ人の論文の中に、少なくもまれには、愚にもつかない空虚な考えをいかめしい数式で武装したようなのもある、そのわけが読めるような気がした。 しかしなんといっても、あらゆる言語のうちで、数学の言語のように、一度つかまえた糸・・・ 寺田寅彦 「数学と語学」
・・・文化的な仕事しかしていない東宝という映画製作所の闘争で、数千の武装警官と機銃をのせた甲虫が登場した光景は、フィルムにもおさめられた。言論の自由が民主的発言にたいしても、百パーセントの実効をあたえているだろうか。減刑運動という名のもとに、日本・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・ 日本の権力者はしんから民主的になろうと努力しておりますか。武装解除した日本として、最後の正義として絶対平和のまもりてとして立つ決心をしているとお思いになりますか? わたしは、これに対する答えを、みなさんの言葉として伺おうと思いません。ただ・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・として感覚されていないことは、警官の見事な武装行列とあばれ振りでよく分ってきています。 日本のこういう文化的下地は、実に重大な特徴です。この下地があるからこそ日本のファシズムが、左からまわって――共産主義の批判ということを正面にたてて―・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
出典:青空文庫