・・・昔から「歯噛みをなして」というのは腹を立てた人の形容ということに相場がきまっているくらいである。ともかくものんびりした気持やぽかんとした気持と、この歯噛みの動作とがよほど縁の遠いものであるだけはたしかであろう。 心理学者の説によると、感・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
・・・おそろしい悲しみと、歯噛みしたいような憤怒とが、一度に彼の腹の底からこみ上げて来た。 が、吉田はすべての感情を押し堪えて、子供を背中に兵児帯で固く縛りつけて、高等係中村と家を出た。 子供は、早朝の爽やかな空気の中で、殊に父に負ぶさっ・・・ 葉山嘉樹 「生爪を剥ぐ」
・・・土神はまたきりきり歯噛みしました。 樺の木は折角なだめようと思って云ったことが又もや却ってこんなことになったのでもうどうしたらいいかわからなくなりただちらちらとその葉を風にゆすっていました。土神は日光を受けてまるで燃えるようになりながら・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
出典:青空文庫