・・・私は、机のひき出しの二十円を死守しなければならぬ。私は、平気で嘘をついた。「いや、このひき出しの中にお金が在りそうに思われるのは、それは君の勘のにぶさだ。そう思わなければ、いけない。見せてもいいが、このひき出しには、お金が無い。実を言えば、・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・東京の市民は東京を死守せよ、一歩も出さない、という風なこわい気風もあったのであった。 東京地図などが持ち出されるのは、大抵従弟で、戦争を実地に経験して来たような客のある晩であった。 どうだろうねえ、どう思う? そんなことから、どれ、・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・この論法をもってすれば、同志小林が残虐きわまる拷問にあいつつ堅忍不抜、ついにボルシェヴィキの党派性を死守して英雄的殉難を遂げたそのボルシェヴィクの最後の積極性が発揮された時こそ、同志小林は最も偏狭であったということになるのだ。 同志小林・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・私としては実に多くのことを学んだこの公判の期間をとおして、一九四三年一月スターリングラードにおいて死守の命令をうけたナチス軍が消息を絶ったというニュース、反ファシスト軍がイタリアのシチリア島に上陸して戦果をおさめ、ムッソリーニが辞職した・・・ 宮本百合子 「年譜」
出典:青空文庫