・・・実際またそうでもしなければ、残金二百円云々は空文に了るほかはなかったのでしょう、何しろ半之丞は妻子は勿論、親戚さえ一人もなかったのですから。 当時の三百円は大金だったでしょう。少くとも田舎大工の半之丞には大金だったのに違いありません。半・・・ 芥川竜之介 「温泉だより」
・・・やっと五百円だけ工面しました。残金百円はあと十日以内に何とかして送金します故、何とぞ支店長に任命のほどを……と、あわれなまでにあわてて送金して来た向きもあった。 そうして集まった金が一万八千円ばかり、これで資金も十分出来たと、丹造は思わ・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・あとでぼくが残金を調べてみれば、わかる。一万円以上は、たしかに使った。こないだの料理だって安くなかったんだぜ。」「そんなら、よしたら、どう? 私だって何も、すき好んで、あなたについて歩いているんじゃないわよ。」 脅迫にちかい。 ・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・金があるからって、威張っていやがる。残金三千円とにらんだが、違うか? 待てよ、こいつ、トイレットで、こっそり残金を調べやがったな。そうでなければ、半分以上残ってるなんて、確言できる筈はない。やった、やったんだ。よくあるやつさ。トイレットの中・・・ 太宰治 「渡り鳥」
・・・ 小学校の費用は、はじめ、これを建つるとき、その半を官よりたすけ、半は市中の富豪より出だして、家を建て書籍を買い、残金は人に貸して利足を取り、永く学校の資となす。また、区内の戸毎に命じて、半年に金一歩を出ださしめ、貸金の利足に合して永続・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
出典:青空文庫