・・・ 大隊長は、司令部へ騎馬伝令を発して、ユフカに於けるパルチザンを残さず殲滅せしめたと報告した。彼は、部下よりも、もっと精気に満ちた幸福を感じていた。背後の村には燃えさしの家が、ぷすぷす燻り、人を焼く、あの火葬場のような悪臭が、部隊を追っ・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・愛する自分の国の科学力の発達が、人畜を殲滅する能力などという点でほこられるとしたら、それは、よろこびよりも苦痛と恥辱を感じさせるのが自然です。 では、どうして、日本の新聞は、そういう誇るべからざる誇りを、毒々しく報道したりするのでしょう・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・軍人どもが文化を殲滅させることもないであろう。私たち作家は、日本文化をけっしてまたとそのような目にあわせまいとかたく決意している。あってならないことは絶対にありえない条件を確保しようと願うのである。〔一九四六年七月〕・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・人民の生活は、燃える空と轟き裂ける大地の間に殲滅される。戦争は、人民にとって直接生命の問題である。命あっての物種、というその命をじかに脅かされることであるから、生命保存のために、人々の全努力が、瞬間の命を守るたたかいに集注される。 絶え・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・女にとって男を殺し、男にとって女を殺し、半ばひらいた美しい人間の精神とその性を殲滅する戦争こそ拒絶しずにはいられない。性は母性父性にまでひろがって、人間の性の正当なあつかいかたを求めて叫んでいると思う。精神の解放の証拠としての肉体解放という・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・矯風会の廃娼運動は、娘が娼妓に売られて来る根源の社会悪を殲滅し得ない。 小さい自作農の息子が分家をするだけの経済力がないために結婚難に陥っていること、またそういうところの若い娘たちが、また別の同じような農家へいわば一個の労働力として嫁に・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫