・・・このような微塵は通例有機質の繊維や鉱物質の土砂の破片から成り立っている。比重は無論空気に比べて著しく大きいが、その体積に対して面積が割合に大きいために、空気の摩擦の力が重力の大部分を消却し、その上到るところに渦のような気流があるために永く空・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・ 液体静力学の実験例えば浮秤で水や固体の比重を測る時でも、毛管現象が如何に多大の影響を有するかという事を見せるために、液面に石鹸の片を触れて比重系の浮上がる様を見せる事なども必要と思う。あるいは夏季水道の水を汲んだままで実験していると溶・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・例えば穀物の研究でも少し詳細にするとすれば、米粒の堅さとか、比重とかを測定する必要が起る。また穀物の生長に及ぼす、光、熱、電気等の影響とか、土壌の物質的性質とかいう問題でも、一つとして物理学の応用を待たぬものはない。また農具の研究並びにその・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・本にある通りの比重でやったら亀の尾は半分も残らなかった。去年の旱害はいちばんよかった所でもこんな工合だったのだ。けれども陸羽一三二号のほうは三割ぐらいしか浮く分がなかった。それでも塩水選をかけたので恰度六斗あったから本田の一町一反分には・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・流紋岩だかなりの比重だ。動くだろう。水の中だし、アルキメデス、水の中だし、動く動く。うまくいった。波、これも大丈夫だ。大丈夫。引率の教師が飛石をつくるのもおかしいがまたえらい。やっぱりおかしい。ありがたい。うまくいった。ひとりが渡る。ぐ・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・「ずいぶん大きくなったなあ、何貫ぐらいあるだろう。」「さあ先生なら一目見て、何百目まで云うんだが、おれたちじゃちょっとわからない。」「比重がわからないからなあ。」「比重はわかるさ比重なら、大抵水と同じだろう。」「どうして・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・今日、よみかえしてみて興味のある点は、この短篇が、死という自然現象を克明に追跡しながら、弟をめぐる人間関係が、同じ比重で追究されていないところである。これは、なぜだったのだろう。 生きる歓喜にむせぶような心もちの少女が、死の迫って来る力・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第一巻)」
・・・作者が重い比重で自分の存在にのしかかって来て、深い悲しみを与えられた人間のそういう気持を、資本主義社会の逆境で歪んで来た人間性においてとらえ作品化すことが出来ず、反対に、有閑の上流生活において腐敗させられてゆく人間の生活力として把えていると・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・後者では東京湾の海苔生産の描写が大仕掛に文化映画的にかかれていて、その間に展開される人間の生活との比重に狂いを生じてさえいる。 それ等の工夫にかかわらず、系譜的と云われる作品が、とかく生活の生々しい絵巻というより楽な過ぎこし方の物語とな・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・その人の階級的人間性が、どのように階級としての理由によって覚醒されているかということに多くの比重がかかって来る。階級の文学を、組合主義、目先の効用主義一点ばりで理解するように啓蒙されて来た人があるとすれば、その人は街の角々に貼り出されていた・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
出典:青空文庫