・・・作品はその自からなる生成の密度で比重が重く沈澱して左右水平の動きを示している上で、作家が体一つで上下動的運動を示し、とび上ったり落ちたり、そのことの重さで益々作品は平たくおしつぶしてゆくような奇妙な姿が現れた。 或る種の作家にとっては一・・・ 宮本百合子 「昭和十五年度の文学様相」
・・・その際、事件の発展の順序、比重、描写における精疎のリズムなどを何によってわれわれが判断するかといえば、描こうとされている現実の複雑な諸要因、錯綜した関係に対して、作者がどことどこに重点をおこうとしているかということが、土台となって来る。現実・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・るとおり社会のあらゆる現象が古きもの新しきものの苦しい錯綜に絡まれているために、例えば恋愛はその限りに於て人間本来の感情と見られていながら、結婚となると昔ながらに、家と家との交渉の面が忽然として大きな比重を占めるようになる。或る結婚は、特定・・・ 宮本百合子 「成長意慾としての恋愛」
・・・ 深い責任感とか、義務を遂行するための勇気とか、女を成長させる力を真直に培われることと、職業そのものや同僚の男のひとたちに対する一種の幻滅とを比べたら、どちらがより多い比重で、それらの娘さんの胸の底にのこされるだろう。女の職業を一時的な・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・意識しない伝統のおもりや歪みが、自分のなかでどんなに判断の現実の比重を狂わせているかをさえ心づかぬままの素朴な純真さで、彼女たちの善意が発露のみちを求めたのであった。 読書というものに向うそういう生活的な態度は、ちかごろ新しくふえた若い・・・ 宮本百合子 「婦人の読書」
・・・ これは『中央公論』が、たった一つのプロレタリア作家の小説もない新年号を敢て出したという事実に対して、階級的文化というものはどういうものか、対立はどんな比重にあるかということをハッキリ示した意味深い事実だ。 それから文壇ファッシズム・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
・・・やはり知りたいのは、その企画における文化としての質と量との比重であろう。 あらゆる面からそのおもしろさを求める点においても、映画を見るものに益々人間らしい人生的な判断の必要が増して来ているにほかならないと思うのである。〔一九三九年二月〕・・・ 宮本百合子 「観る人・観せられる人」
出典:青空文庫