・・・多くの社会政策なるものがやはり、こんなようなもので、多くの人の気付くところには、何等かの対策もするが、人々の気付かないところには、犠牲者を冷酷に看過するといっていゝのです。 私達が、これまでの政治に対して、あきたらないものは、こゝに理由・・・ 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
・・・第一に吉田が気付くのは吉田がその町からこちらの田舎へ来てまだ何ヶ月にもならないのに、その間に受けとったその町の人の誰かの死んだという便りの多いことだった。吉田の母は月に一度か二度そこへ行って来るたびに必ずそんな話を持って帰った。そしてそれは・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・おかみさんはチョッとこっちを振りかえったが、勿論あれ程見知っている俺が、こんな自動車に乗っていようなぞという事には気付く筈もなく――過ぎてしまった。俺は首を窮屈にまげて、しばらくの間うしろの窓から振りかえっていた。「もう直ぐだ、あそこの・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・争われないものだ、お前の母は今ではこういうことに気付くのだ。――母がたずねて行くと、薄暗い家の奥の方で、進ちゃんのお母さんが髪をボウ/\とさせ、眼をギラ/\と光らせて坐っていた。母が入ってきたのを見ると、いきなり其処へ棒立になって、「この野・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・ あのひと、このひと、と実際の場合について考えて見ると、仕事らしい仕事をしている女のひとは、結局みなそれぞれの技術で、万一のときは十分やって行けるところまで達している、つまり玄人であるということに気付くのです。 私は、ここに人間の本・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・ 自分より小さい隣の児に対する弟の態度や何かがそろそろ男と云うものらしくなって来た事などに気付くと、頼もしい様な惜しい様な気になって、見なれた癖の中にいつも、新らしい事を発見したりするのは大抵そんな時であった。 いつも、家と裏の家と・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
出典:青空文庫