・・・それに僕は神経質で、非常に早く疲れ易い。気心の合った親友なら別であるが、そうでもない来客と話をすると、すぐに疲労が起ってきて、坐って居るのさえ苦しくなる。しかもそれを色々隠して、来客と話さねばならないのである。それがこっちから訪ねる場合は、・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・ 只、母親のお節が、狭い村中の母親共に「ほこり」たいため、チンとした花嫁姿が一時も早く見たかったため殆ど独断的に定めてしまったと云ってもいいほどである。 気心の知れない赤の他人にやるよりはと云い出したお節の話が、お節自身でさえ予気(・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・それは私にしてもやきもちもやけば、こっちの気心も知らないで――と腹の立つ事もありましょうけど、道徳の根本問題は何も人がこうだから自分もこうだというのではないからそこからもう一歩踏み込んで、なぜ道楽をするようになるかという所まで究めたいと思う・・・ 宮本百合子 「男が斯うだから女も……は間違い」
・・・「第一、気心が知れやしない」 志津は、「ほーら、そろそろおばあさんの第一が始まった」と笑った。「本当だよ、嘘だと思ったら見て御覧、我々なら大抵まあその人の眼つきを見りゃ、腹で何思ってるか位、凡その見当はつくじゃないか。二階の・・・ 宮本百合子 「街」
・・・親と子とが、ひとの前ででも、しゃんと互を傷けずに各自の意見を表示し得るようになれば、多くの家庭を今日重く複雑にしている面倒な気心のさぐり合いが減って、楽になるだろうと考えたのであった。 ところで、この座談会では、多くの部分が婦人と職業と・・・ 宮本百合子 「短い感想」
・・・「しかし、もし結婚するのならそんな知らない人よりも……」気心も分っている公荘と、「前のことなんかすっかり水に流して」夫婦になってもよいと思うのである。 公荘と家庭をもった後も医者として勤めに出ていた允子は、やがて子供の教育には、母が家に・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・仲平のよめは早くから気心を識り合った娘の中から選び出すほかない。翁は自分の経験からこんなことをも考えている。それは若くて美しいと思われた人も、しばらく交際していて、智慧の足らぬのが暴露してみると、その美貌はいつか忘れられてしまう。また三十に・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫